松風

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まつかぜ


画題

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解説

画題辞典

源氏物語の一節なり、源氏の君の明石にて契りし明石の上が都に上り、大井河の邊に家作りして住み玉ふに、川なみすこく松風吹ほらひて淋しさ限りなし、源氏のかたみとて遺せし琴かきならし。身をかへてひとりかへれる古郷に聞しににたる松風そ吹くなどあり、源氏の君は桂に御堂を建て、月に二度参詣あり、その都度大井河にも歸らず、月の二度の契りとはいふなり、源氏絵の一として画かるゝなり。

(『画題辞典』斎藤隆三)

東洋画題綜覧

(一)源氏物語の中、光源氏卅一歳の秋のことから書いてゐる、源氏の君が契りを結んだ明石の上が遥々都に上つたので、源氏は大井川のほとりに家を立てゝ住まはす、明石の上は此の家に落ついたものゝ大井川の川波の音はげしく、その上松風吹はらつていと寂しい、そこで源氏の君がかたみにとて遺して置いた琴などかきならして憂を紛らす、源氏の君は一方桂の院を建てゝ月に二度はここに詣で、その折ふし明石の上を訪ねるので、僅かに月に二度位である、そこでこれを月の三度の契というた。

渡りたまはんことは、とかう思したばかる程に日比経ぬ、なかなか物思ひつゞけられて、すてし家居も恋しうつれ/゙\なれば、かの御かたみの琴をかきならす、をりのいみじう忍び難ければ、人離れたる方にうちとけて、少し弾くに松風はしたなく響きあひたり、尼君物悲しげにてよりふし給へる、起きあがりて

身をかへてひとりかくれる山里にきゝしに似たる松風ぞ吹く

巻の名は、この一節の歌から取つてある。

源氏絵として画かれるところ少くない。

(二)謡曲の番名、古名『松風村雨』、松風村雨の物語を仕組んだもの、シテは松風、ツレ村雨、ワキは僧で、須磨に松風村雨の物語を偲び、これがあとを尋ねると、松風村雨の幽霊があらはれて、昔の物語をするといふ筋である、三木翠山筆にその作がある。一節を引く

「運ぶは遠き陸奥の、其名や千賀の塩竃、「賎が塩木を運びしは、阿漕が浦に引く汐、「其伊勢の海の二見の浦、二度世にも出てはや、「松の村立かすむ日に汐路や遠く鳴海潟、それは鳴海潟、ここは松影に、月こそさはれ芦の屋、「灘の汐汲む憂き身ぞと、人にや誰も黄楊の櫛、「さしくる波を汲み分けて、見れば月こそ桶にあれ、「是にも月の入りたるや、「うれしや是も月あり、「月は一つ影は二つ満つ汐の、夜の車に月を載せて憂しと思はぬ汐路かな。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)