月兎絵巻

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つきうさぎえまき


画題

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解説

東洋画題綜覧

仏教経典中にある印度の伝説を描いたもので、良寛和尚此の物語を好み常に童女に語り聞かせたといふ、梗概は次の通りである。

昔ある森にが棲んでゐた、互に種類の異る動物ながら睦しくその日を送つてゐると、ある日、帝釈天、菩薩の道を修めてゐるものを験さうと老夫に形を変じて山林に三獣を尋ね、扨て曰ふ『卿等はよく安穏に暮してゐるが、心に何か怖れはないか』と、三獣答へて曰ふ、『幸に草の上を走り茂つた林の中に遊び、皆異つた動物であるが安かに且つ楽しく暮してゐる』と、老夫は更に『卿等はそれ/"\情に厚いと聞いてゐる、自分も年老いたので遥々こゝまで訪ねて来たが、饑ゑて倒れやうとしてゐる、志あらば食べ物を恵みてよ』といふ、三獣は交々『幸にして暫くこゝに留りたまへ、我等自から馳せて老大人の為め食を求め参らせやう』と、先づ狐は水辺に出かけて一尾の鯉を啣へ来り、猿は深林を分けて異つた果実や花など摘んで来た、兎も出かけはしたが空しく還つて来て何物も老夫に勧めない、老夫は曰ふ『狐や猿はそれ/"\に心を労して物を求めて来たのに兎は何物をも齎ら来ない、各々の心はよく解つた』と、すると兎は狐や猿に向つて『樵蘇〈たきぎ〉を求めて賜はれ私には考へがあるから……』と、狐と猿は此の言葉を聞いて草を銜へ、木を曳きこれを集めた、やがて兎はその草木に火を点け、焔の燃え上るのを見て老夫に『仁者よ我が身は卑しく拙くして求むるにものがない、願くは此の身を以て一時の食としたまへ』と言ひざま猛火の中へ飛び込んだ、老夫は帝釈天の姿にかへつて、火を鎮め兎の骸を収め、やゝ暫く兎の死を嘆き悲しんでゐたが、やがて狐、猿に謂て曰ふ、『あはれなる兎よ、いかでその肉を口にし得やうぞ、私はそのあとの泯びぬやうに、之を月輪に寄せて後の世に伝へやうぞ』と、兎の骸を月の中に納めた、月中の兎とはこれから起つた。(原漢文)  (大唐西域記所載大意)

これを画いたものに安田靫彦の作があり、小川芋銭も筆にしてゐる。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)