が、源左衛門は取り合わない。逆に源左衛門は、時頼調伏の証拠の六面の小箱を突きつけ、刀を抜こうとする荒次郎を扇で押しとどめて【E2-2】、
諫める。荒次郎が謝り入るので、源左衛門は小箱を返し与え、本領安堵の御教書の斡旋を願うが、荒次郎は手のひらを返して無視、再び恥じしめる。源左衛門は思わず刀に手をかける【E2-3】
が、場所柄を思って堪えるので、荒次郎は源左衛門の額を打って、なおも侮辱する【E2-4】。
五立目
佐野の館へ、衣笠三木之進(市川わし蔵)と佐野源藤太経景(沢村治之助)が三浦の使者に来て、佐野家の射術の伝書を渡すようと迫るが、源左衛門の父兵衛(中村歌右衛門)の一喝にあって帰る。やがて源左衛門(沢村源之助)が微薫を帯びて帰館する【E2-5】【E2-P1】。
建長寺での一件を知る奥方玉笹(沢村田之助)や家来舟橋勇介(尾上松助)らが恥辱を雪ぐよう勧めても取り合わず、かえって勘当を申し渡す有様。臨月の玉笹は、失意のあまり産気づく。父兵衛は源左衛門の所存を見抜き、産褥の騒動にまぎれ、親子別れの水杯を交わす。赤子の産声をきいて源左衛門は、荒次郎を討つため殿中に向かう。兵衛も、孫の顔を今生の見納めに、続いて跡を追う。
六立目
殿中に忍んだ源左衛門は、みごとに荒次郎を仕留める【E2-6】。
門外では、兵衛が三浦に一味の諸武士を槍で突き伏せる【E2-7】。
手傷を負った兵衛は、案じて駆けつけた勇介とお袖(瀬川路考)に、射術の伝書と家名の再興を託し、自ら首を押し切って果てる。
二番目序幕
佐野家が断絶してから三年の後。鉄輪切の豆吉(尾上松助)の大道芸とともに、伝逸坊(中村歌右衛門)のちょんがれ節が人気を集めている。
二番目二幕目
浪人した佐野次郎左衛門(尾上松助)は、白妙大輔(坂東彦三郎)の世話になっているが、大輔の家は、雨が降ると家の中で傘をささねばならぬ有様。油が切れたので、隣家の娘おさよ(沢村田之助)が蛍を集めようとすると、ちょんがれの伝逸坊(中村歌右衛門)が戯れかかる。大輔が医師藪田毒庵を伴い帰り、籠釣瓶の茶入れの手付けとして、入用の節はいつでも返済という条件で、伝逸坊から次郎左衛門が百両借りて毒庵に渡す。大輔と伝逸坊は、腹這いに寝ころんで煙草をふかしながら、三浦家と佐野家の噂を話す。杉の梢の状箱に目を付けた両人が争うが、状箱の密書は大輔の手に渡る。三浦の大殿義村の奥方となった、大輔の妹萩の戸が訪ねてくるが、大輔は佐野家への義理を立てて家の中へ入ることを許さない。大輔は、様子をきいた次郎左衛門に家再興のためには計略と堪忍が必要と説く。伝逸坊が密書を奪おうとかかるが、大輔は藤戸の仕舞の稽古に事寄せてあしらう。
二番目三幕目
吉原で木文大尽と呼ばれる木谷文蔵(沢村源之助)が、金に飽かして言い寄るが傾城八ツ橋(瀬川路考)は靡くそぶりをみせず、佐野次郎左衛門(尾上松助)を間夫とたてている【E2-8】
が、次郎左衛門は、八ツ橋が父藪田毒庵(沢村治之助)から預かった籠釣瓶の茶入れを見せようとしないのを訝しんでいる。八ツ橋の新造舟橋(沢村田之助)は密かに次郎左衛門に心を寄せ、八ツ橋の部屋で、鏡に写る次郎左衛門の姿に懸想する【E2-9】【E2-10】。
文蔵が次郎左衛門を蔑するので、次郎左衛門は隠れていた長持ちから飛び出して、八ツ橋に酒を注がせる【E2-11】。
そこへ伝逸坊(中村歌右衛門)が現れ、その杯を打ち割って次郎左衛門に金の返済を迫るので、八ツ橋が朝まで期を延ばす。
文蔵の母(市山七蔵)と妹(瀬川亀三郎)が訪れて、文蔵を勘当する。八ツ橋は、金に靡くのは嫌だったが手鍋提げてなら女房になろうと言うが、逆に文蔵が、客が買われては男が立たぬと断る。ところがそこへ損料屋が来て、八ツ橋も裸に剥かれるので、二人は出来てしまう。次郎左衛門は驚き、憤慨するが、舟橋が次郎左衛門を宥めて心を打ち明け、こちらも出来てしまう。すべて文蔵の仕組んだ狂言で、母と妹も偽者だった。伝逸坊への返済には舟橋が百両を用立てるが、文蔵の財布を盗んだものと知れて詮議してゆくと、舟橋は親の定めた次郎左衛門の許嫁、文蔵の母と称したは舟橋の乳母で、伝逸坊の母とわかる。伝逸坊を捕り手が囲み、騒ぎに紛れて舟橋、次郎左衛門も逃げる。
木谷文蔵(沢村源之助)は、明五月七日に命数が尽きるからと称して、八ツ橋(瀬川路考)との婚礼を挙げることとする。そこへ押しかけ女房(沢村田之助)が近所の家主に連れられて来るが、八ツ橋は横恋慕している三浦の家臣熊田軍八(中村東蔵)に譲ると約定の手前、文蔵は婚礼を承知する。その後へ、花嫁八ツ橋の一行も、明日の葬礼の用意一式とともに来て、三々九度の盃を争う。文蔵は、三浦家から預かった佐野家の所領に代わる梅松桜の三木を返納し、軍八から佐野庄の本領安堵の御教書を遣わされる。押しかけ女房が、実は佐野源左衛門の妻玉笹と本名を明かすので、三浦に恩ある文蔵は離縁し、去り状として御教書を与える。
文蔵と八ツ橋の寝間に、佐野次郎左衛門(尾上松助)が忍んでくる【E2-12】。
八ツ橋持参の籠釣瓶の茶入れを奪うため、次郎左衛門が両人に切りつけ、大勢乱れての立ち回りとなる。次郎左衛門は、奥庭一面の杜若にかけ渡された八ツ橋に、八ツ橋を追いつめて切るが、文蔵八ツ橋ともに覚悟の上で、文蔵は佐野家の旧恩を報じて、三浦家から佐野の三木と御教書を守ってきた心底を明かして、次郎左衛門には兄嫁の玉笹にも引き合わせる。佐野の家再興を見届けて、八ツ橋は落ち入る。