法仏法相依 おうぼうぶっぽうそうい
 狭義の「王法」とは、王が定めた法の意で、国家の理念や法律などを総称し、荘園制(しょうえんせい)・武家法(ぶけほう)・法度(はっと)をはじめ時代の制度・道徳・習慣を含めた世俗の掟。「仏法」とは、仏陀(ブッダ)が発見した真理、仏陀が説いた教えの事。
 日本では11世紀初め頃から「王法仏法相双(あいなら)ぶこと、譬(たと)へば車の二輪、鳥の二翼の如し」など、王法と仏法を対概念とする理念が成立。王法と仏法が相依り相助ける関係を意味する。
 近年の歴史学では、実際の国王(天皇)や世俗諸権門(けんもん)の権力と秩序、その統治を「王法」、現実の社会的政治的勢力としての大寺社、またその活動を「仏法」に概念化、仏教が社会的・政治的に独自性を帯びた勢力を形成し、国家全体の編成原理にこれらが組み込まれた中世の政治と宗教との独特な関係を「王法仏法相依」という概念で捉えている。

 しょうぎょう
 狭義には、釈尊の教えの義、転じて仏教の経典、経文、聖典を意味する。密教では事相(じそう)(護摩や灌頂や誦呪など真言の教理をもとにした修法)上の次第、重書などを指す。特に、一流伝授の際に相承する印信(印明を記した文書)や次第(修法の順序を記したもの)などを表聖教、口決(くけつ)や聞書などを裏聖教という。
 現在、史料用語として広く使われている「聖教」は、寺院社会内で、教義や行法に関して記録したもの。或いは、僧尼の修学や、宗教活動の実践に際して活用され、かつ師弟間における原本伝授又は書写伝授によって法脈継承を根拠づける文献、と位置づけられている。
 史料として聖教を捉えた場合、当時の政治や文化に関する情報も読み取ることができ、もう一つの中世史料として注目されている。

寺観智院 とうじかんちいん
 観智院第一世院主杲宝(ごうほう)によって延文4年(1359)に上棟された東寺寺僧の住房、止住僧坊(しじゅうそうぼう)(院家)のひとつ。真言密教法流の一つである小野勧修寺流を継承。杲宝や賢宝、その弟子たちによって収集された典籍や仏像や仏画は、観智院金剛蔵聖教(かんちいんこんごうぞうしょうぎょう)といわれ東寺に伝来している。観智院は、「一宗の勧学院」や「聖教(しょうぎょう)の博物館」ともいわれ、熱心な学僧を輩出した。
 文禄5年(1596)の大地震によって創建当時の建物は全壊し、江戸時代に再建された客殿や本堂は創建当時のものと同規模の建物となっている。
 藤井永観文庫にもいくつか東寺観智院伝来文書が収蔵されている。

 みっきょう
 真言密教の教主、一切の仏菩薩の本地、一切の徳の総摂である大日如来(だいにちにょらい)(摩訶毘廬遮那(まかびるしゃな))を本尊とする真言密教の教え。その教えが秘密深奥であるため「密教」という。利他救済の立場から人間全体の平等と成仏を説いた大乗仏教(だいじょうぶっきょう)の思想基盤やヒンドゥー教の影響を受けて成立した。胎蔵界(たいぞうかい)『大日経(だいにちきょう)』と金剛界(こんごうかい)『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』(金胎両部(こんたいりょうぶ))を代表的な経典とする。
 密教は平安時代、唐(とう)から最澄(さいちょう)と空海(くうかい)によって請来(しょうらい)された。天台宗(てんだいしゅう)最澄の密教法系を台密(たいみつ)、真言宗空海の密教法系を東密(とうみつ)という。東密では、釈迦の教えを説いた顕教(けんぎょう)に対する用語としても使用される。
 現在、歴史学では、中世日本における体制的な仏教を「顕密仏教(けんみつぶっきょう)」という概念に捉え、中世国家における宗教の体制的・構造的な役割が指摘されている。

荼羅 まんだら Man-dalah
 サンスクリット語の漢字音写語。曼荼羅の語義は、「円形の」「円い」などの形容であり、名詞では「円盤・環・郡・集団・全体・地域・領域」など。「曼荼」は、中心・神髄・本質・醍醐味(だいごみ)の義を示し、「羅」は、所有や成就の義を示すことから、本質や神髄を所有するもの、悟りの世界そのもののを意味する。
 密教では、宇宙の真理を表すため、仏菩薩の諸尊を一定の枠の中に配置し、図示したものを指す。描かれた曼荼羅は、視覚的な仏の世界として捉えることができる。特に、密教の修行者は、図絵の曼荼羅によって、身(しん)(修行者の体)口(く)(ことば)意(い)(こころ)の三密(さんみつ)行を操作し、真実の世界を観想し、悟りの世界を得るという。
 曼荼羅には、『大日経(だいにちきょう)』に説かれる「胎蔵界(たいぞうかい)曼荼羅」、『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』に説かれる「金剛界(こんごうかい)曼荼羅」、空海(くうかい)が唐より請来(しょうらい)した「現図曼荼羅(げんずまんだら)」などがある。

 かんじょう abhisecana,abhiseka
 灌頂のもともとの意味は、水を頂(いただき)に灌(そそ)ぐこと。仏教世界における儀礼のひとつ。
 真言密教では、伝法阿闍梨(でんぽうあじゃり)となるための伝法(でんぽう)灌頂、真言の行者となるための学法(がくほう)灌頂、一般の人が広く仏縁を結ぶための結縁(けちえん)灌頂などがある。
 仏教世界に限らず、和歌・平曲・琴などの「藝」を伝承する上で、秘奥や奥義を伝授すること、或いはその儀式も灌頂という。また、天皇の即位儀礼の際、即位する天皇が摂関家(せっかんけ)から即位印(いん)(印契)明(みょう)(真言)を伝受し、高御座(たかみくら)で実修することを即位灌頂という。
 灌頂は、師弟の間で成立するような藝能の伝承、技の伝受、身分の相承など、これらを継承する者の資格会得や許可にかかわる儀式なども意味し、中世に多く生み出された。

 


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