オーラル・ヒストリー設計の基礎
ZEN大学 コンテンツ産業史アーカイブ研究センターが実施するオーラル・ヒストリーは、日本のコンテンツ産業史における貴重な証言を収集することを目的としています。そのために、インタビューは周到な準備のもとに行われ、その設計の根幹をなすのが「コンセプト会議」です。
1.コンセプト会議の役割
コンセプト会議とは、「インタビュイー(語り手)の語りを通じて知りたいことを聞きだし、知らないことを教えてもらうために問いを立てる場」です。
この会議には主に2つの重要な役割があります。
・テーマ設定:
インタビューの核となる問いを「大テーマ」「中テーマ」「小テーマ」という階層構造で設定します。これにより、インタビュー全体の方向性が定まり、論理的で一貫性のある質問を組み立てることができます。
・事前の情報共有と準備の促進:
会議で設定されたテーマの要旨は、事前にインタビュイーへ送付されます。これにより、インタビュイーはインタビューの目的や内容をあらかじめ把握し、記憶の整理や関連資料の準備などを進めることが可能になります。
2.テーマの三層構造
インタビューの問いは、以下の三層構造で設計されます。この構造化によって、漠然とした興味から具体的な質問へと落とし込み、深く体系的な語りを引き出すことが可能になります。
A. 大テーマ(インタビューにおける大きな問い・仮説)
インタビュー全体を貫く最も大きな問いや仮説です。インタビュイーのキャリアを通じて、コンテンツ産業史のどのような側面を明らかにしたいのかを定義します。
B. 中テーマ(時代区分やトピックごとの分類)
大テーマを、インタビュイーの経歴における時代区分や、特定の事業・作品といった具体的なトピックごとに分類したものです。これにより、インタビューの流れが整理され、多角的な質問が可能になります。
C. 小テーマ(具体的な質問項目)
中テーマをさらに掘り下げる、個別の質問項目にほぼ等しいテーマです。インタビュイーが具体的な経験や考えを語りやすくなるよう、より焦点を絞った問いを設定します。
このように、コンセプト会議で設定されたテーマの三層構造は、オーラル・ヒストリーの質を担保し、当事者による重要な一次証言を体系的に記録するための基礎となる設計図の役割を果たしています。