虫愛づる姫君

提供: ArtWiki
2021年12月7日 (火) 20:05時点におけるWikiSysop (トーク | 投稿記録)による版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
ナビゲーションに移動 検索に移動

むしめずるひめぎみ


画題

画像(Open)


解説

東洋画題綜覧

『堤中納言物語』中の一篇、我が国の物語ものゝ中にあつて古きものに属し、物語の筋も奇警である、蝶愛づる姫君の住む傍に按察使〈あぜし〉の大納言の姫が住んでゐて、いろ/\と恐ろしげなる虫を愛で遊び、はては使つてゐる童の名にまで虫の名をつけて興ずる、若い人々はこの噂を聞き、いろ/\と歌など詠じては嘲る、姫は巧みに外らせて却つて皮肉にこれを嬲る、ここにある上達部の婿の愛敬ある男、姫のことを聞いて帯の端にの形をうまく作り、鱗だつた懸袋に入れて姫に送る、姫の周囲の人々怖れて立騒ぐを聞き、大殿太刀提げて来り見れば作りものゝ蛇なので、却つてその機転をほめる、これから姫と右馬之助とのやりとりとなる、面白い文章である。一節を引く

この姫君ののたまふ事『人々の花や蝶やと賞づるこそ、はかなうあやしけれ、人は実あり、本地尋ねたるこそ心ばへをかしけれ』とて万、虫の恐しげなるを取集めて、これが成らむさまを見むとて、様々なる籠、箱どもに入れさせ給ふ、中にも鳥毛虫〈かはむし〉の、心深きさましたるこそ心にくけれとて、明暮は耳挟みをして、手のうちにそへ伏せて目守り給ふ、若き人々は怖ぢ惑ひければ、男の童の物怖ぢせず、いふかひなきを召し寄せて、箱の虫ども取らせ、名を用ひ聞き、今新しきには名をつけて興じ給ふ、人はすべてつくらふ所あるは悪しとて、眉更に抜き給はず、歯黒更にうるさし、きたなしとてつけ給はず、いと白らかに笑みつゝこの虫どもを朝夕に愛し給ふ、人々怖ぢわびて逃ぐれば、その御方は、いと怪しくなむ詈りける、かく怖づる人をば『けしからず放俗なり』とて、いと眉黒にてなむ睨み給ひけるにいとゞ心地なむ惑ひける、親たちはいと怪しく、さまことにおはするこそと思しけれど、思し取りたる事ぞあらむや、怪しき事ぞと思ひて聞ゆる事は深くさはらへ給へば、いとぞかしこきやと、これもいと恥しと思したり『さはありとも音聞あやしや、人はみめをかしき事をこそ好むなれ、むくつけげなる鳥毛虫を興ずるなると、世の人の聞かむもいと怪し』と聞え給へば、『苦しからず、万の事どもを尋ねて末を見ればこそ事はゆゑあれ、いと幼き事なり、鳥毛虫の蝶とはなるなり』そのさまになり出づるを取り出でゝ見せ給へり。(下略)

この物語を画いた作

小谷津任牛筆  『虫愛づる姫君』  第十九回院展出品

織田観潮筆   『同』       第三回新文展出品

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)