勾当内侍

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こうとうのないし


画題

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解説

前賢故実

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(『前賢故実』)

東洋画題綜覧

新田義貞の妾、実名は詳でない、勾当内侍の職を奉じたので其の名となつてゐる、義貞の討死を聞き遥々越路に赴き義貞の獄門の首を見て哀悼措かず緑の黒髪を切つて嵯峨の奥往生院のあたりに行ひすましたといふ。

去ぬる建武のはじめ天下又乱れんとせし時新田左中将帝に召されて、内裏の御警固にぞ候はれける、或夜月冷して風秋かなるに、此勾当の内侍、半簾を捲きて琴を弾じ給ひけり、中将其怨声に心引れて、覚えず禁庭の月に立ち吟ひ、あやなく心そぞろにあこがれてければ、唐垣の傍に立ち紛れて伺ひけるを、内侍見る人ありと物佗びげにて、琴をば弾かずなりぬ、夜痛く深けて有明の月のくまなく差し入りたるに、類ひまてやはつらからめと、打ち詠じてしほれ伏したる気色の、折らば落ちぬべき萩の露、拾はゞ消えなん玉篠の、あられより尚あだなれば、中将行末も知らぬ道にまよひぬる心地して、帰る方もさだかならず、淑景舎の傍にやすらひかねて立ち明す、朝より夙に帰りても風なりし面影の、猶ここもとにある心迷に、世のわざ人のいひかはすことも心の外なれば、いつとなく起きもせず、寝もせで夜を明し日を暮して、若ししるべする海人だにあらば忘草のおふといふ浦のあたりにも尋ねゆきなましと、そぞろに思ひしづみ給ふ、あまりにせん方なきまゝに、媒すべき人を尋ね出して、そよとばかりを、しらすべき風の使の下荻の穂に出づるまではなくともとて

我袖のなみだにとまるかげとだにしらで雲井の月やすむらん

と詠みて遺されたりければ、君の聞召されんことも憚ありとて、よに哀げなる気色に見えながら手にだに取らずと、使帰りて語りければ、中将いとゞ思ひしほれて、いふべき方なく、あるを憑の命とも覚えずなりぬべきを何人か奏しけん、君、等閑ならずと聞召して、夷心のわく方なさに、思ひそめけるも理なりと、哀なることに思召しければ、御遊の御次に左中将を召され、御酒たばせ給ひけるに、勾当の内侍をば此盃につけてぞ仰出されける。  (太平記巻二十)

此の情景が大和絵の好画題として描かれてゐる。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)