伊衡少将

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これひらのしょうしょう


画題

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解説

東洋画題綜覧

平安朝の歌人、延喜の帝、皇子の御著袴の料に屏風を作らせ給ひ、当時の歌人に命じて歌を奉らしめ之を色紙に書かせてしつらヘんと思召し、小野道風に揮毫を命じたまうた処春の帖の桜花の栄えたる処に女車のある題に歌がなかつたので、何人に仰付らるべきかと御考慮の末、伊勢御息所に白羽の矢が立ち、その御歌の使に藤原少将伊衡が詔を奉じて赴くことになり、伊勢の御息所を訪れる、その伊勢の住居のありさま、簾をへだてて女臈の出入するさま、伊衡が伊勢に顔を合せるまでの様子など絵のやうに描かれてゐるのが、『今昔物語』延喜御屏風伊勢御息所読和歌語で、これを画いたものに左の諸作がある。

冷泉為恭筆  『今昔物語伊勢図』  堺市浄光寺蔵

高橋広湖筆  『少将伊衡』     第四回文展出品

松岡映丘筆  『伊衡の少将』    伊太利日本美術展出品

今昔物語の一節を引く。

伊衡は仰を奉て御息所の家に行て見れば、五条渡なる所也、庭の木立ち極て木暗くて前栽極く可咲く殖たり、庭は苔砂青み渡たり三月許の事なれば、前桜おもしろく栄え寝殿の南面に帽額の簾所々破て神さびたり、伊衡中門の脇の廊に立て、人を以て内の御使にて伊衡と申す人なむ参たると云せければ、若き侍の男出来て比方に入らせ給へと云へば、寝殿の南面に歩み寄て居たる内に故びたる女房の音にて内に入らせ給へと云、簾を搔上て見れば母屋の簾は下したり、朽木形の几帳の清気なる三間許に副て立たり西東三問許去て四尺の屏風の中馴たる立たり、母屋の簾に副へて高麗端の畳を敷て、其の上に唐錦の茵敷たり、板敷の被瑩たる事鏡の如し、影残り無く移て見ゆ、屋の体旧くして神さびたり、寄て茵の旁の方に居たれば内より空薫の香氷やか馥しくほのほの匂ひ出づ、情気なる女房の袖口共透たり、額つき吉き二三人計、簾より透て見ゆ簾の気色極く故有りし可咲〈おか〉し。

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)