『和漢百物語』主馬介卜部季武の技法について

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総合

◇血

 『和漢百物語』は浮世絵版画であるから、産女の衣服に付着した血もそのように色づけされたものである。芳年の作品、特に初期の物では、残虐絵と称される血を描いた作品が多くみられる。この残虐絵は芳年の特徴であり、つまり「血」は芳年作品の重要な一点であったと考えられる。「流血をさらに印象付けるため、ぺたぺた血の手形を画面に登場させ」(注1)る工夫をするなど、作品内の血の表現には力を入れていたのだろう。しかし実際、この浮世絵において血をどのような手法で描いたのかは調べがつかなかった。

 ポイントとして挙げられるとすれば、類似点の見られる作品として採り上げた北斎や石燕のものは有彩色は存在せず、無彩色でのみ描かれている。反対に芳年の作品は色づけされたものであるから、産女の下半身のその血は見る者に強い印象を与えたのではないか、ということである。


◇髪の毛

 「彫」において「最も六ヶしいのは髪の毛である」(注2)というのだが、産女の髪の毛を見ると、頭部上部から下部への一方方向ではなく耳の上辺りは上向けに生え、また項の辺りでは背中に流れる髪を横切るように前に落ちる髪が描かれている。髪の毛は「一筋づつほり分け」(注3)なければならないというから、この髪の毛の表現はこの作品においての彫師の妙技が表れている部分であるのだろう。


◇川

 水面が奥の濃紺から手前の薄い青へとグラデーションになっている。「海面を水色潰しにしても、近くは濃く、遠くは薄くすること」(注4)などには特殊な色板を用いる必要があるようなので、ここに摺師の妙技が出ているのであろう。




<脚注>

(注1)悳俊彦『月岡芳年の世界』、東京書籍、1993年01月27日

(注2)石井研堂『錦絵の彫と摺』、芸艸堂、2005年03日25日(昭和4年初版の再版本(昭和40年9月刊)の改訂覆刻版)

(注3)注12と同じ

(注4)注12と同じ