甲子待戯りやうじ 

[小]団次
[ ]ことにわたくしも皆様のおかげで[ま]いどしんものでおちはとり[ま]すが じだいにかけては少しせいがひくいので [由]良の助や政[右]衛門ははまり[かね]ます [もう]少し[背]を[高]くねがひ[ま]す ついては[小文]次めもわたくしどう[やう]小兵でこまり升トねがつたら

[それ]ではたかい下駄をはいてながいきものをきるがよい


[九蔵]
ことにわたくしは内外のなんびやうで [ ]も四百四病のやまひよりつらいと申シた [ ]ゐどうか此ふりかたはござりますまいか

[ ]はおれの手ぎはにも行ぬから 高しまやにまかなひをたのんだら又いゝしあんもあらう

[福助]
[ ]さまがわたくしのかほは今ひといきあいきやうが[な]いとおつしやるから おかめのめんにあやかつてどう[か]あいきやうを出しておもらひ申シたうぞんじます

[なん]じのあいきやうはともかくも せりふまはしにもう少し気をつけたらよからう


[三津五]郎
[ ]もわたくしは生れついての大あばた 元をうめるには第一[おし]ろいも多分入ます どうかおりやうぢをねがひます


[そな]たは釜へ湯をわかしてかほをむすとふや[ける ]からたちまちあばたはなをりもしようが [おま]へのやうにぶたいをすてゝゐては むかし[の]ものは夫でもよいが 当時は高[しま]やがよい手本よほど一生けん[め]いならなくでは田の太夫の[前へ]は出られぬ/\


[彦三郎]
[八]百さんあんまり[おまへ]はしやりん[に]て いつそ[うごき]がぎごツ[ ] もう[ ]ぶたいが[ ]ければ[ ]から おいら[どし]やでもかけてやらう

[八百蔵]
[これ]はごしんせつにありがたいが わたしより[兄人]さんは初日より二日 ふつかよりか三日とぶたいをすてるといふひやうばん まづ夫からさきへおりやうぢをおねがひなされたらよからう

[いか]にも両人のいふ処もつとも 八百蔵はいかにしや[りん]がよいといつてあれでは気の入れ処がちがふから いか[にも]どしやがよい/\ 又彦三郎は当時若手の上手ながら [と]てもぶたいがかるすぎてけんぶつが淋しくおもひます すこしづゝこんでされるやうに どうかよいりやうぢを工風なされまし

[芝翫]
[私]は近頃やまひがなをつたらとんともの覚へがわるくなりまして [台詞]をわすれるのはもちろん一度や二度あつたお客はわすれ[ ] これでままご/\してゐたら弟にたんなばをとられて仕舞[升]う どうぞよいおりやうぢをねがひます

[天は二]ぶつをあたへず 人気のあるてまへには芸をさづけぬといふ天[の]さぢかげん しかし今の.女<によ>が来てから女れんの人気うすう成 翫竹は


[ ]くせずおぢすぢの尾張やとはむつましなし チトうちのきよしたのを一トりやうぢせずはいけまい

[田之助]
[なん]だか私のことをあまりしすぎるの ヤレちよこまかするといゝますが [こせ]ついてぶたいをつとめるのすきで ねてゐてさへも片時でもぶたいの[ことを]わするゝひまはなく 夫に兄きや座がしらはあの通りのぼん[やり こ]のわたしでもみゝつちくいごかないじやア芝居になりません

[なる]ほど夫もそうで有うが 十分はかけるといふからチト紫若と当ぶんにしたら丁度よいやくしやができるであらう [おま]へのからだのいごくのと紫若太夫のいごかぬのとつツつき[合せ]て しかし紫若の愛敬をちつとわけてやりたい[ ]/\ ふたり当ぶんにしてよいやくしやをこしらへてやらう

[鶴蔵]
[私]はくちゆへにくまるゝトやら どうも私はぐちがすぎるので[こまり]ます どうぞおりやうぢをねがひます

[口は]わざはひのかど 夫ゆへ亀旦那の所へわびにでもいかねば[なら]ぬ ほかにまじなひもないゆへくちでもしばつてゐたらよからう

[権十郎]
[ ]も世の中も面白くない 一座をせぬうちは音羽やの[兄貴は]名人だと思つたが 二年もつきやつて見るとかくべつな[ことは]ない 凡世かいにおいらほどのものはすく[ないと]思ふと そこらへはながつかへてなりません

[訥升]
[ ]中にねるほどらくはなかり[ ]きよのばかゞおきて[ ]くで朝寝[程よ]いものはなし [ ]こしまに[ ]さすし[ ] かうぼん[やりして]ゐちやア[世]がわたられない どうぞおりやうぢをねがひ升

[から]しでもたべてみたら 少しははつきりしようもしれぬ

[家橘]
わたしのことをこせつくの何のト申升が たとへ太夫元でもざがしらでも[やく]しやでございますから こしのひくいほうがよろしからうとぞんじ升が 外によい御工風が厶り升ウか

愛敬をうる家業だからどこ迄もこしのひくいがよいけれども ものにはわうず[ ]もの ともかくも旦那とよばるゝ 弟ぶん同じ役者でもちがふ身がらゆへ あまり[ ]すぢの野だすぢは少しお見合せなされませ しかしぶたいにてんの打所は厶りません 只々へいぜいのとりまはしが余りこせつきト申スので有う おまへも訥升とでも当分にしたらよからう

[鴈八]
[わたし]のことをヤレめがさがつてゐるの何のと口やかましくいふので 御多数や娘ッこのひゐきが[ど]うかとおいしや様に聞たらば おもいれ ねをつめてかみをゆへといつたが これじやア亡人の文楽のやうになつた

※[(空白)]は裁断のため不明部分。[ ]で囲った文字は、別本で補った。