鹿
しか
画題
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解説
画題辞典
鹿は古く支那に於て仙獣と呼ばれ、本朝に於て神獣と称せられたるもの。その形色甚だ麗にしく、牡は枝多き雙角を有す、獲狩の目的物たるより、英雄天下を掌握する権位の称となり、中原に駆逐して争わんとする阿睹物の称となる。又鹿の音「祿」に通ずるより、福祿食祿を称することゝなり。種々の方面より絵画として甚だ多く描かる、壽老人と配せられて画かるゝは特に古くよりの事にして、又鶴と配しては「鹿鶴」と呼ばれ、百個の鹿を画きて百祿と題し、詩経の百祿是荷に因りて福の徴証とす。文人画に於ては「百齢食祿」など題さるゝ事あり、
狩野探幽、狩野常信、本阿弥光悦、緒方光琳、円山応挙、酒井抱一等の諸家図する処多し、光悦筆群鹿屏風(小林文七氏所蔵)は大正震災に亡びたるも、俵屋宗達筆群鹿絵巻(原富太郎氏所蔵)は今に名品としく珍重せらる。近く第一回文展に木島櫻谷「しくれ」と題して秋郊遊鹿を画き、国画創作展又榊原紫峯春日の鹿を画くものあり。
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
鹿は鹿科に属する反芻動物で偶蹄類、広く世界的に分布してゐるが、日本の芸術に現はれる鹿は、日本鹿と称し、北海道本州四国九州朝鮮から東北支那に棲息する、常に山林原野に棲み、食物は山毛欅、樫、栗等の実、萱や笹の葉、其他樹木の若芽、若枝などで、時に畑地に出て来て作物などを荒すこともある。平常は極く温和の動物であるが、秋の交尾期になると牡は一種哀調を帯びた声で啼き牝を呼ぶ、此の時期は性質も非常に粗くなつて往々牡同士で相争ふことなどがある、妊孕期間は八ケ月で五月頃分娩する、一産一仔で四歳にして成熟する、角は生後第二年の初夏に三四寸の原基が、前頭骨上に生じ、其冬に堅い角となる、角の岐は八年にして三叉となる、夏冬毛色を異にしてゐるが、夏は赤褐色に多くの白斑があつて美しい、昔から仙獣と称せられ、千年にして蒼鹿といひ更に五百年を経て玄鹿と称せらる、角は種々工芸品に用ゐられ肉は食用に供せられてゐる。その形優美なので、画題としても極めて広くあるが、鹿そのもの丈け画いたものも少くない、琳派には光悦の外、宗達、光琳、抱一、其一、何帠、乾山など、それ/゙\独特の形を案出揮毫してゐるが四条派円山派の人々は殊にその作が多い、応挙には楓鹿、月下鹿などの作少からず、四条派の呉春、景文、狙仙、徹山、一鳳、寛斎など、皆よく鹿を画き、近く滝和亭、橋本雅邦、竹内栖鳳、榊原紫峰、川端竜子、池上秀畝等にそれ/゙\力作あり、工芸美術等にも極めて多い。
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)