A4-0 惑わす力...

 歴史の中には妖婦、悪女、毒婦と呼ばれるような女性達が存在する。彼女達は自らの美貌や鍛え抜かれた芸事、優れた知性などを使い男性を誘惑し悪事を働いたとされている。ここでは女性のもつ男性を「惑わす力」に注目したい。
 日本の外に目を向けると、中国に、殷の紂王(ちゅうおう)の妃、妲己(だっき)がいる。紂王は家臣の蘇護氏に美しい娘がいると聞き、蘇護に娘を差し出させる。この娘こそが後に悪女として恐れられた妲己である。妲己は紂王を篭絡し言いなりにする。紂王は、池に酒を注ぎ肉を木にかけて林とする酒池肉林の酒宴を催し、炭火の上に油を塗った銅柱を並べ、罪人を渡らせる焙烙の法を定めて、妲己を喜ばせた。
 唐の時代の傾国の美女として楊貴妃を思い浮べる人も多いだろう。白居易の「長恨歌」にもうたわれた楊貴妃と玄宗皇帝のエピソードは、多くの文学や絵画を生んだ。安禄山による安史の乱を引き起こした原因は楊貴妃にあると見なされ、楊貴妃は処刑されるが、楊貴妃自身に国を傾ける意志はなかったともいう。男の側が美に翻弄されたのである。
 妲己には、九尾の狐が憑いていたとされ、これが日本に渡ると玉藻前となった。江戸時代を代表する毒婦は、妲己のお百と呼ばれた。明治に現れた毒婦には、高橋お伝がいる。本パートでは、こうした妖婦たちが、どのように文芸や絵画で表現されたかを紹介したい。(小.)
【参考図】
五柳亭徳升(作)『三国妖狐殺生石』(立命館ARC shiBK03-0119)