B4-4 近世読本の巴

『源平盛衰記図会』
編著者:秋里籬島 絵師:西村中和、奥文鳴、源貞章 
判型:半紙本 全6冊第4巻(4冊目)
出版年:寛政12年(1780)
所蔵機関:UPS Marega 所蔵番号:MM0099-04.

【解説】
 『源平盛衰記』を題材とする読本『源平盛衰記図会』(全6巻6冊)の第4巻、章段「巴女力戦殺内田家吉」中の挿絵で、「巴御前河原合戦勇力を振ふ」と題されている。やや俯瞰の構図で、七条河原の合戦において太刀を手に敵の軍勢を四方へ蹴散らす巴の姿が描かれている。『図会』の編著者である秋里籬島は多数の名所図会を手掛けた人物であり、本作品をはじめとした『図会』の挿絵には名所図会風の俯瞰の構図を取るものが少なくない。
 『図会』は、一般的に物語としての創作性は低いとされており、物語の内容ではなく、これらの軍記物語の内容を漢字平仮名交じりの文で書かれた絵入りの「読本」として一般庶民にも分かりやすい形で提供したところにその意義があるという。本作品に描かれる巴の姿も、一般庶民に向け「分かりやすい形」で表されたものであるといえよう。周りに散らばる大勢の敵に対し、見開きの画面中央に配置される女武者・巴。頁を開くとその存在がまず目を引くだけでなく、大勢の敵を一人で蹴散らすという、戦場における巴の能力の高さが一目で伝わるような構図である。巴が「大力の勇婦」として広く人口に膾炙する一因は、このような視覚的な「印象付け」にもあるのではないだろうか。(菅)