B3-3 浄瑠璃御前物語の解体

「日本略史図」「浄瑠理姫」「牛若丸」
絵師:長谷川貞信〈2〉 判型:大判錦絵
出版:明治11年(1878)10月
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcUP5424.

【解説】
左手の人物が牛若丸、中央の人物が浄瑠璃御前である。跪いた浄瑠璃御前の前には桶が置かれ、顔を洗う牛若丸の世話を姫自らが行っている。この場面は一夜を共にした二人の翌朝の様子であり、牛若丸は笹竜胆の柄の入った着物を一枚はおっているだけである。
画中文には管弦の遊びをきっかけとして結ばれたとあるものの、この場面では笛も琴も登場せず、単に男女の関係のみが強調されている。七度目の誘いでようやく館に入る牛若丸や、言葉を尽くしても簡単には靡かない浄瑠璃御前の様子など、浄瑠璃御前物語で描写された二人の奥ゆかしさや管弦、和歌に優れた高貴な人物である面は感じられない。
このように明治期に入ると、浄瑠璃御前は物語の内容から離れて、牛若丸と関係した多くの女性のうちの一人にすぎなくなる。江戸時代以前には大きく広まっていた浄瑠璃御前物語の悲恋や仏のありがたさを描いた内容は人々の中から忘れ去られ、浄瑠璃御前という名前が一人歩きするようになった。現代では浄瑠璃というジャンルにその名を残すのみである。(山)