C1-5 私本太平記 阿野廉子

『画帖私本太平記』
著者:杉本健吉
出版:1963年
所蔵:立命館ARC

【解説】
 これは吉川英治氏によって書かれた歴史小説である『私本太平記」』に杉本健吉氏が白黒の挿絵を加えたものである。これは1958年(昭和33年)1月から「毎日新聞」に連載された『太平記』が題材になっており、足利尊氏を主役として描かれている。そしてこの本には連載されていたものの中で杉本氏本人が選んだものがまとめられている。吉川氏の大河小説や戦後文学の挿絵も担当するなどこの2人には深い交流があり、この本も同じように担当したと考えられる。話の流れは『太平記』と大きな違いはないが、登場人物一人一人の性格や言動が脚色されている。小説に登場する阿野廉子は随所に艶やかで美しい寵愛の妃として描かれている一方で、『太平記』や「大塔宮曦鎧」にはなかった恋愛の視点が加えられている。後醍醐天皇を巡った争いではその想いの激しさや自分の目的のためなら手段を選ばない冷徹な一面を見せており、より悪女的な要素が強く現れている。

(簗)