B5-0 静御前...

 静御前は平安時代末期を生きた女性である。白拍子(磯禅師)を母に持ち、自身もまた舞の名手として名高かった。美しい容姿で源義経の寵愛を受けていた彼女の物語は、義経やその周囲の人々との関わりを中心に『平家物語』や『義経記』などの作品に留まらず、幸若舞や人形浄瑠璃、歌舞伎など様々な芸能の題材としても取り上げられ、現代まで伝わっている。愛する義経と別れ、その仇である源頼朝の前で舞を披露しなければならなかった静御前の悲しみに満ちた境遇は、多くの人々の同情を誘った。
 しかし悲劇的な境遇にありながらも、物語の中で描かれる静御前は決して弱い人物ではない。館が夜襲を受けた際には敵が迫っていることを義経にいち早く知らせ、鎌倉の鶴ヶ丘八幡宮で舞を披露した際には、頼朝の前で義経を想う歌を高らかに詠みあげた。その気丈な人物像と義経を一心に想う様子もまた多くの人々の共感を集め、近世期以降、静御前の姿は主に武家の女性達にとっての理想とすべき人物像として定着していく。
 一方で義経と吉野山で別れたのち、どこでどのようにその生涯を終えたのかについては、諸説あって不明な点も多い。ここでは、義経伝説の中で、堀川夜討、鶴岡社頭の舞、さらには浄瑠璃「義経千本桜」に取り上げられた狐忠信説話にからむ作品を展示し、「義経の寵愛を受けた女性」として最も著名な女性となった理由を探りたい。(川.)