B4-6 能の巴

「能楽図絵」「巴」 
絵師:月岡耕漁 判型:大判錦絵
出版年:明治30年(1897)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcUP0907.

【解説】
 能版画家、月岡耕漁が描いた「能楽図絵」のシリーズのうちの一つ。能「巴」における武者姿の巴を描いている。
 能「巴」の中心部分は、巴の霊による義仲の最期の「語り」である。ここでの巴は、義仲の最期や自らの合戦離脱までの様子を、義仲に対する執心を中心において語る。『源平盛衰記』において巴が持つこととなった「亡者を弔い、物語る」という役割が、ここでは僧への語りという形で反映されており、巴の心理描写がほとんどなされていない『平家物語』諸本とは対照的である。
 また、巴が手に持つ薙刀は、能の巴の最大の特徴であり、演目において大きな比重を占めている。義仲に落ち延びるよう命じられた巴は、薙刀を手に、押し寄せてきた大勢の敵を嵐のごとき敏捷さで斬り捨てる。ここでの巴の薙刀さばきは優雅なものである。「巴」において、巴が薙刀を持つこととなった理由は、薙刀が室町時代後期から女性の教養となっていったことの反映であると同時に、巴の女性性を強調するものであるとされている。
 能「巴」では、義仲に対する恋慕や執心を見せる巴や巴のもつ「弔う者」という役割の「女性らしさ」を、女性の武具というイメージの強い薙刀を持たせることにより際立たせている。女性的な性格を強く持つ巴の姿がそこには描かれているのである。(菅)