•  

伝統工芸がもつ近代化遺産の活用と総合的研究

研究代表者:文学部 教授 木立 雅朗

①研究分野
 京都を中心とする文化産業(染織産業や窯業など)や、文化研究(文化史、民俗学、京都学、コンテンツ産業論など)の分野にまたがる地域連携・地域貢献を目指す総合的な研究を行なう。伝統工芸が果たしてきた役割の多くは、近代化によって大きく展開かつ変容している。そのため、伝統工芸がもたらした産業遺産は、近代化とともに多様な文化遺産を集積している。ここでは、それに関わる多様な道具・デザイン画・文書類・写真・地図などの資料群の調査検討をふまえ、テーマ①・③の成果を吸収しつつ、有機的な文化資源のデジタル・アーカイブを構築する。そして、それらのデータベースを産業界、行政、NPO、市民が活用しやすいシステムとして提供する。それによって、新たな地域産業のイノベーションをも創出する研究と社会還元の循環による、「京都らしい」地域密着型の社会貢献のあり方を提言する。

②研究内容
本研究では、以下の4つの京都の伝統産業を文化研究と融合させる。
1)染織産業の道具類全体を含めた工房全体の記録・調査・研究とそれらの活用
廃業したまま多数の資料を保存している型友禅工房の悉皆調査を行ない、多様な手法を用いて現状の記録と資料の収集・整理を行なう。資料群の有機的関連を重視し、膨大な資料群の価値を多面的に検討する。
2)京焼の資源としての京都の陶土の調査・研究と活用
京都の陶土については、京都市内の自然資源を活用するため、良好な陶土が出土する地点を調査し、陶土の分布地図を製作する。さらに京都の陶土を活用した作品展を開催し、それを通じて自然資源の提供を呼びかける。
3)祇園祭に関わる様々な工芸品の現状の調査・記録とデジタル・ミュージアムへの展開
これまで33基ある山鉾の内、船鉾に関して4年をかけて詳細なデジタル・アーカイブを構築してきたが、このアーカイブを他の山鉾にも展開し、それらを用いたデジタル・ミュージアムを展開し、観光産業を視野に入れた新たな地域産業の創出を目指す。
4)京都の伝統的な京町家の暮らし方や設(しつら)えに関する調査研究と京町家の利活用
現在、立命館大学が連携を進めている京都市指定文化財の大型京町家の「長江家住宅」を対象に、京町家の工芸品や設えに関するデータベースを構築し、京町家を活用した新たな教育・観光産業の創出を検討する。 また、これらの伝統工芸は空間的な位置情報を持つことから、近世・近代の地理空間情報をベースとしてGISやWeb技術を活用して、可視化することを試みる。

③期待される成果又はその公表計画
 ARCに集積された多様なデータベースを有機的に運用し、研究成果を産学双方にとって活用しやすいシステムを形成できる。研究成果の社会還元という一方的な成果還元ではなく、「還元」が双方向的に繰り返される持続性のある研究方法を模索できる。また、こうした一連の活動は、近年危機に瀕している伝統産業資料・歴史資料に対して、あるいは日々工事等で失われいる自然資源について、「産業遺産」という新しい価値を積極的に付与する。現在も埋もれている京都の歴史資料と自然資源を「産業遺産」として再発掘することになる。今現在も失われつつある資料群の価値付けは緊急的な課題であり、このような研究は資料の保存と活用の双方を地域社会に訴えてゆくためには不可欠なものである。そのため、3年目に資料の一部を公開し、4年目にはその資料を活用した産学連携を行ない、最終年度に有機的なデータベースとその活用例を一般公開する予定である。