研究目的・意義

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 人文系研究資源の蓄積や共有化は、その分野を担当する公的組織での重要な課題であり、さまざまな努力がなされている。ところが芸術文化分野でのデジタル化には、高度なアーカイブ技術が必要とされる場合もあり、あまり進展がない。とくに文系理系の研究者が常に共同体制で行われないと実現しない1次資料の効率的な資源共有化については、現段階で実現している組織は見当らない。しかし、芸術文化分野での研究資源の共有は、難しいだけに逆に研究を飛躍的に進化させる可能性を持っている。

 アート・リサーチセンターでは、文理融合型研究所としてデジタルアーカイブ手法や公開研究を行ってきており、そのノウハウが蓄積されている。今回、芸術文化系研究者自らが現地調査を進めるながら資料のデジタル化を効率よく行ない、デジタル資源化し蓄積していく新たな手法によるプロジェクトを立ち上げる目的は、この最難関分野でのデジタル資源共有化にある。特殊な対象に対しても標準化が可能な技術開発を並行しつつ日常の研究活動の中で、資源蓄積がされ、しかも様々な形態の資料を横断検索する実践研究を行う。

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研究体制

 本研究は、立命館大学アート・リサーチセンターを中心に資源共有化にかかわる能力と意欲を持つ文系研究者と、その資源をWeb上で共有化するためのデータベース構築・横断型検索技術を開発する図書館情報系研究者、ならびに芸術・文化系の資源のデジタルアーカイブにおいて必要な技術開発を行う情報系研究者から構成される。

 これまでアート・リサーチセンターでは、21世紀COEプログラム、グローバルCOEプログラム等において、文理融合型の研究を推進してきた実績があるため、本研究のような文理双方からのアプローチが成功に導かれる可能性が高く、かつ本研究は、「開発」段階を経て、具体的に資源を共有化し、世界規模で活用できるようにする政策的な面を備えるため、国内外の芸術・文化系の研究組織への働きかけを行うためのメンバーを持つ。

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年次計画

<平成21年>
・2次元、映像資源のデジタル化と蓄積、Web共有型ドキュメンテーション作成、閲覧システムによる公開。
・色彩アーカイブ活用と応用研究。
・ロボット型全自動全方位3次元計測システムとモデリング開発。
・メタデータハーベスティング、メタデータ自動マッピング実験。

<平成22年>
・国内個人コレクションのデジタル化と蓄積。3次元資料開始。映像演劇系2次元資料連携型データベースの公開。海外の博物館等とデジタル化契約交渉。
・映像アーカイブシステム活用実験。
・マルチバンド色彩記録の標準化と実用化。
・横断検索の実験、絵画データの横断検索実用化。

<平成23年>
・漆器類開始。デジタル顕微鏡を使った精細画像の記録方法の実用化。イタリアでの2次元資料のデジタル化。
・映像アーカイブ国際的教育利用継続。
・3次元資料の色彩アーカイブ技術の活用と応用。漆器類の3次元自動計測モデリング実験。
・検索結果の統合・ランキング研究。

<平成24年>
・2,3次元、映像資料の共有化活動継続。
・東欧圏アーカイビング。色彩データの評価・標準化。全自動全方位3次元計測システム活用

<平成25年>
・2,3次元資料、映像資料の共有化、色彩3次元情報記録方法の標準化活動継続。全自動全方位3次元計測システムの運用。
・資源デジタルバンクの広報・評価。国際シンポジウム開催。デジタル資源芸術文化研究拠点確立。

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研究により期待される効果

 これまでも博物館・美術館が莫大な資金を掛けた収蔵品デジタル化作業が行われてきている。しかし、その数が少なく、また対象となる資料も限定されているため、効果は少ない。本研究は、研究者自らが研究調査と並行して大量アーカイブを行うことができるという画期的な方法により、共有資源の量が劇的に変化する。芸術・文化分野では、扱う資料の数がその研究の価値を決定づける重要な要素であり、この点でこの分野の教育・研究方法を根本から変える可能性がある。また、芸術・文化分野では、原資料の閲覧自体に制限がかかっており、より多くの人脈を持つ研究者が実力を認められるという学問のあり方に疑問を持たざるを得ない慣習さえ現存する。そのため、本研究が実現する「的確な視点」による記録方法の標準化が伴ったデジタルアーカイブは、有用性が高く、これが世界規模で共有化されることは、日本文化研究全体への寄与する部分も大きい。