09 おかる 勘平

「仮名手本忠臣蔵」は所作が詳細に確立されており、本作品中の、手ぬぐいを口に当て、歯で食いしばっているおかると右腕の袖を左手でまくりあげているシーンは実際の舞台でも上演されていることが分かった。手ぬぐいを使用した悲しみの表現方法は、声を出して泣くのではなく、女性のしおらしさを演出するためのものと考えられる。また、関東と関西では演出に差異があり、関東の舞台の方が勘平の侍である身分を重視して、衣装の点などで華やかな演出が多いことが分かった。「仮名手本忠臣蔵」は歌舞伎の中でも最高峰の作品であり、古くから現代に至るまでに、不動の地位を物にしてきた。実際に起こった「元禄赤穂事件」自体が世間に広く知られており、その事件に踏まえ、今回の作品の「おかる・勘平」といった完成度の高いサブストーリーが織り込まれているところが「仮名手本忠臣蔵」が長きにわたって人気を維持している理由であるといえよう。本作品は、「仮名手本忠臣蔵」の六段目、おかると勘平の別れの場面が、三代目歌川豊国の手によって如実に再現されている。その場面において最も盛り上がり、役者と観客の熱気がピークを迎える一瞬を正確に捉えることができるのも、後世に名を残す名画師である三代目歌川豊国だからこそ成せる技なのであろう。