04 権八 小紫

 

絵師:三代目豊国
落款:好任豊国画
大判錦絵 1枚
版元:笹屋又兵衛
改印:申六改
出版年月:万延元年(
1860)6月
配役:権八<3>市川市蔵 小むらさき<3>沢村田之助
 
権八、小紫は「花摘籠五十三驛」の主人公である。小むらさきの着ている袢纏には釻菊の文様が入っており、これは歌舞伎俳優沢村宗十郎一門の紀伊国屋の屋号を表している。沢村一門の屋号は釻菊以外にも存在し、時代・役者に関係なく混同して使われることが多いが、<3>沢村田之助の役者絵には、この釻菊が使用されていることが殆どのようである。
また、小むらさきの髪型は勝山髷(丸髷)とよばれるもので、髪飾りは簡素であり、簪や櫛が水平に挿されているのが特徴。小紫は遊女の階級としては最上級の太夫とされていたが、世間一般にイメージされる太夫や花魁といえば、もっと豪華絢爛な身なりだとされているのではないだろうか。実際に太夫たちがそのような華美な髪型や髪飾りをし始めるのは、1800年前後からであり、元禄期(17世紀末)はまだ太夫ですら櫛や簪を挿していることは少なかったようだ。『恋合 端唄尽』が描かれたのは1860年頃だが、小紫の身なりに当時の文化をしっかりと反映させていることがわかる。
この二人は実在した人物とされており、小紫を買うために犯罪者となった権八と、処刑された権八を後追いした小紫を一途な恋愛物語として語り継がれており、東京目黒区では二人の比翼塚を見ることができる。

 

【翻刻】
「仇なゑがほに ついほれこんで つまこふきじのほろゝにも ちひろの海に雁金の言伝たのむ燕の便 うそならはんに皃鳥 見てとはがいの肌にいだきしめ それなりそこへ とまり山 うれしいしやびじやないかいな

「すいな浮世を恋ゆへに やぼがにくらすも心から 梅が香そゆる春風に 二まい屏風を押へだて 朧月夜の うすあかり しのび/\てあいぼれのくぜつの床の泪雨池の城のよもすがら しんになくでは エヽ ないかいな

「あぢなる事からついほれすぎて そこの神さま仏さん かなはぬ恋もかながき文 ことつてたのむ まかせるたより あはれぬつらさに 又のむ酒は あたためもせずあおりつけ 其儘そこへひれふして ふと目がさめりや 火の用心さつしやりましよう