1.3五番立TOP

●望月(もちづき)

UP0929S.jpg[あらすじ]
 信濃国の安田荘司友春は望月秋長に殺された。その家来・小沢刑部友房が営んでいる「甲屋」という宿屋に、弱々しくまた寂しげな妻子が一夜の宿を乞う。それは殺された友春の妻子であった。小沢は自らを名乗り、互いに再会を喜んだ。そこへ、友春を殺害した罪による13年の刑を終え、故郷信濃へと下っていた望月秋長が偶然にも甲屋に宿泊する。小沢はその旨を妻子に伝え、友春の妻を盲御前に仕立て、子・花若と共に望月の座敷に出す。 母は謡い、花若は八撥を打ち舞う。乱序の囃子にのり、赤獅子頭の小沢が登場、勇壮な獅子舞を舞う。芸尽くしを存分に楽しみ、旅の疲れもあったせいかすっかりまどろんだ望月の隙を見て、小沢と花若は望月の敵討ちをし遂げる。

[場面解説]
画面右上には「獅子團乱旋は時を知る 雨村雲やさわぐらん」とある。この謡のあとに、子方は胸元に据えた鞨鼓を打ち、鞨鼓の舞を舞う。そして続けて、獅子の出立をしたシテが橋掛かりから「乱序」という独特の囃子にのって登場し、獅子の舞を舞う。そのあまりの面白さに、ワキの望月秋長は酒宴半ばですっかり気を許してしまう。その隙を狙って親子は望月を討つのであるが、ここで子方とシテが舞う鞨鼓と獅子の舞は、望月を油断させるための余興なのである。
獅子の舞といえば、獅子の精が牡丹の花に戯れ舞う「石橋」が有名であるが、この「望月」は、劇中で人間が獅子に扮して舞うという点、また敵を油断させて仇を討つという背景があることから、「石橋」とは違った写実感と緊張感のある舞台展開が楽しめる。本作品においても、覆面からわずかに見えるシテの眼に、そうした緊張感や気迫が感じられる。