貝は古くから食料として採取され、装身具や美術工芸品の中では、光沢や色彩を活かした装飾に用いられる場合とモチーフに利用されてきました。江戸時代の小袖にも貝はモチーフとして利用されていて「梅樹網干海松貝模様小袖」(女子美術大学美術館蔵)などにもみることができます。 では、布地を染めるために使用された型紙はどのような形で貝をモチーフとして利用していたのでしょうか。いくつか型紙をご紹介しながら、貝類がモチーフとして型紙の中でどのように利用されてきたのかご紹介したいと思います。
では、布地を染めるために使用された型紙はどのような形で貝をモチーフとして利用していたのでしょうか。いくつか型紙をご紹介しながら、貝類がモチーフとして型紙の中でどのように利用されてきたのかご紹介したいと思います。
こちらの型紙は、貝と貝桶が敷き詰められた型紙です。栄螺や蛤などの貝がちりばめられています。一方、貝桶とは「貝合わせ」という物合わせの遊びで使う貝をしまっておく道具のことで、こちらの型紙では六角形の筒型になっています。貝桶は、婚礼調度の中心として、蒔絵をほどこされるなどして華やかに装飾されました。型紙の中で、貝桶の周囲には、貝桶を結ぶための房のついた紐も表現されています。
この型紙は、突彫と呼ばれる技法により彫刻されています。突彫は彫刻刀の刃先が薄く鋭く整えられていて、細い曲線も自由に彫刻することができます。なお、この型紙の場合輪郭線が細く、ほとんど均一の幅で彫刻されていますので、彫刻刀が二枚刃になっている「二挺」(にちょう)で彫刻されてのかもしれません。この彫刻刀は、二枚の刃がついているので細い線を均一の太さで彫刻することができるのです。
次にご紹介する型紙にも貝桶と貝、そして桜の花が彫刻されています。こちらの型紙は、先ほどの突彫と「錐彫」と呼ばれる技法によるものです。錐彫は、刃先が小さな半円形になっていて、彫刻刀を半回転させることにより小さな円を彫刻する技法です。また、径の異なる円が彫刻されているので、二種類の彫刻刀を使用して彫刻された錐彫だと思われます。複数の彫刻刀を使い分けることによって全体が単調にならず緩急をつけたデザインとして仕上がっています
最後にご紹介する型紙は、非常に細かな模様が配されている小紋です。遠目からではどのようなデザインなのか判断が難しいと思いますが、近づいてみるとさまざまな貝が配されている「貝尽くし」であることがわかります。大小さまざまな大きさで無造作に配置さえているように見えますが、バランスがとれていて、すき間が均等に配分されています。また、こちらの型紙は錐彫と「道具彫」による組み合わせで彫刻されています。錐彫は、径の異なる彫刻刀が使われていて大小の円が確認できます。一方、道具彫は三角や四角などさまざまな形に整えられた彫刻刀を使用する技法で、こちらの型紙では曲線を彫刻するために使用されています。緩急のあるデザインになっていますが、錐彫による彫刻が大半を占めているので、全体が丸みをおびたかわいらしい印象になっているのではないでしょうか。
身近でありながら、なかなか種類を区別することが難しい貝。さまざまな種類の貝を見比べながらどのように模様として形が変えられているのかを比べてみることも楽しいのではないでしょうか。
参考URL
立命館大学ARC所蔵寄託品 浮世絵データベース
文化遺産オンライン