染色型紙プロジェクト > キョーテック所蔵型紙の解説

17.09.01
キョーテック所蔵型紙の解説

鱗(うろこ)は魚類やは虫類の表面を覆い、体を保護している小片を指します。一方、文様の場合は三角形の頂点が合うように組み合わされたものをいいます。実際の鱗は三角形とは限りませんが、なんとなく連想できるように文様の名前がつけられていますね。一方、芸能の衣裳でもちいられる場合は、鱗文様の衣裳を着用した女性は、鬼女や蛇体である場合が多く、人物の背景を暗喩する表現に用いられます。また、軍記物語である『太平記』には北条氏が三つ鱗紋を家紋とする発端が語られます。鱗文様は、古くから使われることによって様々なイメージが生まれ、そしてイメージも一つにはとどまりません。

おもに布地を染めるために制作された型紙でも鱗文様のデザインが見受けられますが、鬼女や北条家の家紋というイメージよりもむしろ、「かたち」を組み合わせてデザインとして楽しんでいた様子がうかがえます。


 

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「鱗」

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こちらの型紙は、鱗文様の中にさらに鱗文様が入るようなデザインになっています。型紙を彫刻する技法は、2種類使われています。直線で型紙が切り取られている箇所は、「突彫」と呼ばれる技法によります。刃先を薄く鋭く整えた彫刻刀によって直線や曲線を彫刻することができます。一方、点で鱗文様が構成されている箇所は「錐彫」と呼ばれる技法によります。こちらは、彫刻刀の刃先が半円形に整えられていて、型紙に彫刻刀をあてて半回転することで小さな円を彫刻して、円の集合によって直線や曲線を彫刻するのです。2種類の技法を使い分けることによって、同じ鱗文様でありながら大きく印象が異なります。



 

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「鱗」

KTS11348

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次の型紙は、すべて錐彫によって表現された鱗文様です。目を凝らしてみると小さな円によって二等辺三角形が構成されていることがわかります。文様を構成しているのは、たった6つの小さな円ですが、間隔が均等に揃うことで鱗文様が形作られていくのです。シンプルなデザインですが、少しでも彫刻の位置がずれてしまうと型紙全体の中で非常に目立ってしまいます。型彫師は細心の注意を払いながら一つ一つ彫刻していったのでしょう。

 

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「麻の葉に藤」

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最後にご紹介する型紙は、正三角形をつなげた鱗文様により構成されています。鱗文様は基本的に二等辺三角形が繋がっていることが多いのですが、アレンジされたものとしてご紹介したいと思います。

こちらの型紙は、突彫と錐彫によって構成されています。三角形の内部は麻の葉文様が敷き詰められたものと藤の花が三方向にのびたものとがあります。麻の葉文様は直線によって構成されますので、型紙を彫り抜く面積が大きくなっていて、直線を彫刻することが非常に難しかったことが想像されます。一方、藤の花も曲線で構成される上に花弁も多いので、型彫りの高い技術が必要とされたことがわかります。この型紙は、すべて突彫で彫刻されていますが、そうとは思えないほど曲線と直線が対照的です。

鱗文様は、時に対象の人物やものの意味を暗示するように働きます。そのため、文様の意味が優先されるようにも思えますが、かたちとしてはすべて直線によって構成されるため、アレンジの幅に広がりのある文様ともいえます。意味だけではなく、かたちとして文様を見ることもまた、デザインを楽しむ要素の一つなのではないでしょうか。

 

参考URL 立命館大学ARC所蔵寄託品 浮世絵データベース

※画像、記事の無断転載を禁止します。
© 2017 KYOLITE Co.,ltd. Mizuho Kamo

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