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2007年11月20日

第8回GCOEセミナー(大矢敦子)

【発表のまとめ】

「明治大正期の日本映画界を取り巻く環境―尾上松之助を通して―」

 本報告では、主に報告者が過去に調査し発表した尾上松之助のフィルモグラフィー作成の経緯と方法及び問題点を具体的に報告すると共に、フィルモグラフィーを使用して考察した、松之助の芝居と松之助映画作品の関連性についての報告を行った。また、デジタル化した資料をフィルモグラフィーと共にデータベースとして構築し、映画研究また諸人文学に有益な調査環境を整えていくことについても展望と課題を述べた。

 はじめに戦前の日本映画史研究における問題点を挙げ、それを克服するために必要な二次資料の情報整理及び情報共有の必要性を述べた。次に、松之助を通して映画史を再考察する上で必要だった尾上松之助のフィルモグラフィーを作成する意義・方法・情報精査の問題を示した。また、そのフィルモグラフィーを基に松之助の 1.明治後期から大正初期(旅芝居~映画) 2.大正後期(ページェント活動)二つの時期における、京都を中心とした映画と芝居の関連性についての考察を発表した。1.では、映画作品の公開時期のずれを利用し同作品の芝居と映画を興行することで、松之助のイメージが市内を中心に広がっていったこと、2.では大正中期からのページェント流行を捉え、映画撮影とページェントへの出演を巧みに行ってイメージの維持を図っていたことなどを述べた。最後に、デジタル化を行った松之助関連資料(絵葉書・チラシ・アルバム写真)を提示し、今後フィルモグラフィーとリンクをさせたデータベースの構築を行う上での問題及び今後の調査研究の予定を述べた。

 

【質疑応答のまとめ】

発表に対して主に以下の質問、意見をいただいた。

1. 松之助映画作品だけを調査するよりも、調査期間すべての映画情報を網羅するべきである。(當山先生)
2. 再度新聞情報を調査し、当時の映画情報を収集していくことは可能か (八村先生)
3. 新聞調査を進める上で、DVD化されていないものについては、マイクロフィルムをスキャンをして、情報を共有できるようにするべき。(赤間先生)
4. データベースを作成し、自分の研究に反映させる具体的考察方法について(八村先生)
5. 写真としての絵葉書から作品の演出方法を考察することについての注意すべき点。(松葉氏)
6. 絵葉書、チラシ等の資料を使っていかに映画作品を考察していくのか。(西川氏)
7. 「毛谷村六助」の考察例では、浮世絵よりも舞台写真を比較材料として挙げるべきでは。(西川氏)
8. 新聞情報(広告、演芸欄)の時系列に注意すべき。(西川氏)

 

【発表者の回答】

1. とにかく松之助のフィルモグラフィーをまずは完成させることを目標としていたため、映画に関する総ての情報を網羅する発想が当時はなかった。大まかな情報としての映画興行、映画作品情報収集と整理を可能であれば今後、検討したい。

2.3. 今現在調査予定はないが、アルバイト等の人材を使用しての調査等を将来的に検討したい。
フィルムのスキャンについては、その方法等を教授願えればと思う。

4.6. フィルモグラフィーを作成したことで、松之助の芝居興行と映画興行の関連性が判明した。今後は、画像資料とフィルモグラフィーをリンクさせる方針だが、それによってジャンルの変遷や、年代に応じた作品の特徴というものをまずは考察できると考えている。自分が何を考察したいのかを再度整理し、具体的考察方法を考える必要がある。

5. 松葉氏が指摘されたとおり、映画のシーンを写した当時の絵葉書は、舞台写真と同じような種類の要素を含んでいる。単に、映画のシーンをそのまま写した(=演出方法がわかる)ということではなく、別の視点(売る側、撮る側など)が、介在していることを認識し、考察を行う必要があると考えている。

7. 松之助の映画作品が具体的に歌舞伎の影響をどの程度受けているのかを考察する上で、浮世絵と絵葉書の一部を比較したが、年代の近い舞台写真との比較を行う必要がある。ARCの「京都演劇プロジェクト/ 国劇=舞台写真検索システム」等を利用していきたい。比較の手法としては、5.の見解も忘れずに考察を行いたい。

8. 新聞記者の取材によって、映画の製作途中での情報・映画興行前の情報・映画興行後の情報など、取材時期によって作品情報(監督、タイトルなど)が変動する可能性があることを指摘いただいた。その点も念頭において、調査を進めていきたい。

発表の記録

コメント(12)

瀬戸です.
松葉さんのご発表と同じくご発表をお伺いしておりませんので,的外れな質問であればお許し下さい.

1.尾上松之助にいわば特化したDBを構築することで,諸人文学に対して「広く」使える要素として何がかんがえられるのか?

 →尾上松之助が,研究対象として諸分野から広く注目されているのか否か?


2. アルバイトで大丈夫?
 コアとなるのは時代的にかんがえて,京都の場合は「京都日出新聞」となるでしょうね.歴史学の研究でもコア資料として扱われているので,諸分野との連携という意味でも有用かと思います.

ところで,アルバイトとここではおっしゃっていますが,明治~大正期の新聞はごらんになったことはありますか?私が不勉強で苦手なだけかもしれませんが,抽出するだけでもかなりの作業量・スキルになるかと思います.この点のお考えはいかがでしょうか?

當山日出夫 : 2007年11月29日 08:57

全体をまず見る必要があります。

限定してかまいません。資料を、日出新聞と大阪朝日新聞京都付録・・・だけでよいから、大衆娯楽DB・映画DB、のようなものをまず作るべきだと、思います。

総合的な、日本映画DBは、フィルムセンターが、いずれ作るでしょう(たぶん。)しかし、それを、待ってはいられない。であるならば、京都に限定して、ある程度のものを作ってしまうのが、よい。

また、京都に限定する意味もある。
1.地域的に狭いので、やりやすい。
2.明治から現在まで、都市としての連続性がある。東京の場合、関東大震災と、太平洋戦争とで、都市の容貌が多きく変化していますので、断絶がある。また、東京は、ひろすぎる。

通常、(私もそうなのですが)人文学系の研究者は、100%、をめざします。しかし、工学系の発想はそうではない。何が、実用的か(ちゃんと動いて使えることが、まず大事)・・・これは、かなりの偏見かもしれませんが。

この意味で、日出新聞・大阪朝日、に限定することは、資料的な制約があり、100%を補足することは無理かもしれません。しかし、実用的な範囲のデータは取得可能なはずです。

でなければ、
1.尾上松之助が、1000本の映画に、と言っても、それが、他の役者にくらべて、どれほど多いのか、少ないのか、わかりません。
2.また、他の、娯楽との関連もわかりません。大矢さんが、尾上が野外劇にもかかわったと指摘なさいましたが、では、当時の京都の街で、どのような野外劇が、ほかにおこなわれていたのかが分からないと、尾上松之助の活動の意味づけもできません。
3.また、京都の状態が分かるようにすることは、将来、総合的な日本映画史のなかでの京都を考えるうえで、必要です。

資料の限界から、補足率が、7~8割ぐらいでもかまいません。100%、でなくてもよい。足りない分は、次の研究者が、補足していけばよい。

1.とりあえず、基本となる、京都の映画・演劇・大衆娯楽のDBを作ってみる。資料は、日出新聞と大阪朝日に限定。
2.これは、期間は、とりあえず大正時代に限定してもいいでしょう。

これをベースにしたうえで、大矢さんの尾上松之助研究の御研究が意味を持つ、あるいは、上田さんの常設映画館研究の御研究も、意味がはっきりする。

問題は、今後の、限定的な、人的資源と期間内で、どこまで可能か、ということです。場合によっては、日出新聞だけに限定してもいいかもしれません。とにかく、全体像を見えるようにすること、これがまず必要であると考えます。

100%でなくてもいい、研究目的にとって何が実用的か、この発想の切り替えが、できるかどうか(これは、私自身の研究課題=景観文字研究をふくめて、難しい問題ではあるのですが。)

當山日出夫(とうやまひでお)

瀬戸様

コメントをありがとうございます。

1.のご質問ですが、松之助が諸分野から広く注目されているという状況ではないです。ただ、松之助を調査していて、映画が発明される以前の芸能との結びつきの強さや、松之助映画作品が大衆文学(講談・新聞連載小説など)に原作を求めていくところが予想以上に濃いので、芸能史・文学研究方面から比較対象として活用ができるのではないかと考えています。また、たとえば絵葉書や写真に写っている背景が特定できれば(大覚寺・嵐山等なら現在わかります)、地理学の方面からでも何かしら活用してもらえるのではないかと思います。その辺りはどうなのでしょうか?

2.のご質問に関してですが、現在まで日出・大阪朝日・大阪毎日・都新聞・読売新聞等々何紙か見ていますし、日出、大阪朝日に関しては20年近い分量を見ております。日出・大阪朝日に関しては、新聞資料はすでに抽出して複写していますので、その入力作業はエクセル等使用できる方であれば問題ないと思います。また、新聞の情報部位の抽出作業については、演芸欄・広告欄のみとし、期間を限定すれば初心者でも大丈夫と考えています。

當山先生

コメントをありがとうございました。また返信が遅くなり申し訳ありません。

松之助の調査にのみ重点を置いていたので、広い視点で同時代の演芸関係に関してまで手をつけることができませんでしたが、今後自分の研究に支障のない方法で、大体のデータを整理していけたらと考えております。

私もどちらかというと、100%の完成度にこだわってしまうタイプなので、松之助フィルモグラフィーの作成に関しても、巻数・タイトル等の確定にさんざん悩まされました(今も悩んでいます)。ただ、調査中に同じように目にする他の映画館情報・作品また浪花節や歌舞伎等の情報もすごく気になっておりましたので、期間や新聞を区切って整理してみようと思います。また、この作業をすることによって、自身の研究に対する客観性のようなものも先生のおっしゃるように見えてくると思います。

貴重なご意見と具体的なアドバイスをいただきまして、ありがとうございました。

大矢敦子

當山日出夫 : 2007年12月 5日 10:49

自分で全部やることはない・・・と思います。

どれだけの人的資源が確保できるか、の問題ですが、日出新聞の、芸能・演劇・映画・大衆的娯楽、などの記事・広告のDBは、できれば、共同作業でやった方がいい、というのが私の考えです。

理由は、
1.
作業期間を短縮して、一気にやってしまう。長時間、ダラダラと作業すると、途中で判断が変わったりするので、とりあえず、一定の基準で、総合的に、全体を見られること、その均一性が重要です。
2.
一つの記事について、基本的には、二人以上の人間の眼で見た方がいい。一人だと、どうしても、自分の研究にかかわって、バイアスがかかります。他の立場の目というのは、絶対に必要です。(単に、単純ミスを防ぐという意味だけではなく。)

そして、これは、可能であれば公開すればいいし、あるいは、大矢さんが、確かな論文を仕上げるまでは、内部だけのものにしておいてもよい。

ともあれ、いろんな文化遺産のデジタル・アーカイブについては、いろんなモノについて、様々に試行錯誤しています。最近で面白いのは、東大経済学部が持っている、古代中国貨幣のコレクションのDB。

まずは、データ・ベースの構造・・・要するに、どのような項目を基本項目として設定するか・・・これについて、関係する人たちで集まって、相談するの適切でしょう。共有する部分についてです。

これをベースにして、尾上松之助などの個別の研究が、どうなりたつのかを考えてみる。あるいは、常設映画館の形成の過程は、どうであるのか。

となれば、軸になる(共有すべきは)、上演のタイトル(映画・演劇)、場所(劇場)・人物(役者・監督など)、それと、時間(年月日)。このうち、場所と時間については、GISで、処理可能です。あるいは、そのデータの共有のためにGISを使う、と考えた方がいいかもしれません。人物やタイトルは、キーワード検索になる。(同一人物の異表記などは、後から、シソーラスをつくってもよい)。

人文学系のDBについては、「じんもんこん」やCH研究会などで、いろいろな試みが発表されています。なるべく、こういうものを多くみて、今後の研究の方向を定めていくのが、いいでしょう。

當山日出夫(とうやまひでお)

瀬戸です。

大矢さんからご質問いただいたのに、お返事遅くなってすみません。

1.に関して
という事は松之助映画作品の研究が当該研究のフロンティアになっていく訳ですね。ぜひご健闘下さい。

なお風景画については私なんかよりもずっと詳しいスタッフが他にもおりますが、絵はがき・写真から現在位置を特定し地点をプロットしていくことや現在の同地点の景観と比較することで一つの研究となり得る可能性は十分にあります。ここらへんは是非継続的に打ち合わせなり対応させてください。

また當山先生が早速GISも考慮してコメント下さっていますが、その通りです。前回のCOEでプロトタイプ的に芝居小屋DBを作りましたが、このGCOEでさらにコンテンツを整備・拡充する必要はあるかと思うので、この点についてもご相談・ご質問等していただければ/できれば と思います。

當山先生
瀬戸様

コメントをありがとうございます。

當山先生:

GISでの時間と場所の処理についての具体的な方法が私はわかりませんので、一度知っておられる方(地理の方や理工系の方)から説明をいただければと思います。
実は、東京での公開作品名と京都での公開作品名とでは同一作品でも違う場合が多々あります。こういったタイトルの整合に関して、シソーラスが作成でき応用できればと思います。情報系の学会には出席したことがありませんので「じんもんこん2007」等で具体的な研究・発表を見たいと思います。


瀬戸様:


風景については実はあまり特定できていません…。例えば、寺院等の写真を見たり実際に寺院を回って特定する必要があるかと思います。

芝居小屋のDBとは「バーチャル京都」の2Dマップのことでしょうか?
http://www.geo.lt.ritsumei.ac.jp/webgis/virtualkyoto2d_img2.html
芝居小屋に関しては、上田さんの発表での調査も含めて、小屋の変遷情報(建替え・映画会社との契約状況・当時の写真や内部構造などわかれば)が反映できれば、更にいいと現時点では思います。


大矢敦子

當山日出夫 : 2007年12月 6日 20:50

GISについては、私はまったく素人ですから・・・というよりも、基本的な考え方は分かっていても、今は、まだ、ちょっと壁が高いかな~~、という印象です。

私自身の研究(景観文字研究)で、ArcGISとか、カシミール3Dとか、考えてみたのですが、もうちょっと待って、もう少しつかいやすくなってから、と判断したような次第です。(文法的には日本語、ただし、用語はすべてカタカナという世界になってしまうので・・・)

ただ、データに緯度経度情報を付加して残しておけば、そのうちなんとかなるだろう・・・

ただ、映画史研究の視点からみれば、その作品が上映された場所(映画館)が問題であるわけです。建物としては大きなものですから、さほど、精度の高い位置情報が必要であるわけではありません。それから、場所も、限定的でしょう。

デジタル地図をつかえば、その場所の緯度経度情報は簡単に取得できます。それを映画館や劇場、あるいは、寺社の境内、などの名称への付属情報として、付加しておけばいい。それが、エクセルのセル、アクセスのフィールド、として、設定してあれば・・・後は、地理の人たちがなんとかしてくれる・・・と、期待することにしましょう。

ただ、その時の、緯度経度情報を記載するときの形式と精度をどうするか、事前に相談しておく必要があります。これが、一番、大事な点でしょう。

それから、人文学系の普通の(つまり、私のような)研究者にも、簡単に使えるGISのシステムを、京大の原正一郎先生たちが、開発中です。こんどの「じんもんこん2007」でも、その発表があります。

當山日出夫(とうやまひでお)

當山先生

コメントをありがとうございます。

GIS等の技術面に関しては、基本的なことから学ぶ必要があるので、そこまで手を広げられるかわかりませんが、まずは「松之助」を基本とするDBの項目等を整理し直し、公開することを一つの目標としたいと思います。

緯度経度情報の付加につきましては、作業量として多くないようですので、項目として追加を検討します。さまざまなアドバイスをありがとうございます。

大矢敦子

瀬戸です。

今公開しているのは2Dマップ上ですが、3DマップやGE(GoogleEarth)でも内容によっては公開可能です。ただ、いろいろなマップに持って行く際にDB構成を大幅に変えなくては行けない…!というのでは意味がありませんので、うまく規格化できないだろうと個人的には検討中です。(原先生らのシステムも去年あたりの段階から注目していますが、いろいろな意味で要検討)

私は地理情報班の代表ではないので勝手な事は言えないのですが、昨年まで色々なグループから仕事を受けさせて頂いた経緯からご参考程度にお話しすると…

(1)緯度経度の情報(精度は載せる情報によって異なるので算出方法も含め打ち合わせ。GoogleMapでもできるのでGISの専門知識が無くてもそこまで難しいことではないです)

(2)地図上でクリックした際のリンク先(例えばARCの浮世絵DB構成や院政期DBのように各項目の独立したWebぺージになっているもの)

があると掲載する際に非常に作業がしやすいです。
一度に全部やるのは確かに時間が膨大に掛かると思いますので、徐々にでも良いかと思います。

ここら辺の議論の一部は、火曜日の桐村報告でも出てくるかと思います。

nisikawa yoshikazu : 2007年12月10日 12:10

西川です。
瀬戸先生のコメントにあった桐村報告は12/11(明日じゃん!)のGCOEセミナーの
 桐村喬「地図情報のカタログサイトの開発-Web上の地図カタログ-」
になります。
詳細は

 https://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/seminar/2007/12/11gcoe.html

をご覧ください。
(ネットでの実験中継をします。本拠点関係者に限らせていただきますが、ご希望の方は西川までご連絡ください。)

先日の懇親会の席で、井上さんからGISの基本的なことを教えていただきました。地理的な位置を確認することがとりあえず重要であることや、ソフトを使って比較的簡単に作ることが出来るということで、少しGISについてわかりかけた気がしました。ありがとうございました。

ただ、自分自身(研究者として)がどういった目的でGIS等利用したいのか、といったことも考える必要があることもわかりました。私としては、例えば、「京都と映画の関係」を研究者以外の方にもわかってもらえるような、視覚に訴える(一目見てわかる)ようなものがあればいいのではないかと考えているのですが、もし使うならば自身の研究にどう生かしていくかを考えていく必要があるかと思います。

大矢敦子

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