武蔵野
むさしの
画題
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解説
画題辞典
今の東京の前の江戸の尚ほ建設されぬ前には、此地方一帯は四方十里に互りて唯廣漠たる大平野にして萩薄きの生へ繁るばかりしなり。
武蔵野は月の入るべき影もなし 草より出でて草にこそ入れ
の和歌最も膾炙さる。
土佐光起筆武蔵野図(水戸塙氏所職)
菱田春草筆武蔵野図(日本絵画協會共進會出品)
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
武蔵野は関東平野の一部、江戸の北部から西に拡がる茫々たる平野で、大凡八里四方位、西は秩父、西多摩の連山を以て限り南は多摩川、北と東は越辺川八間川から荒川筋を以て境とする、今は田園よく拓けたが昔は特有の雑木林が多く、その間に往還が通じて交通上の枢要地となり、府中を中心として武家割拠の時代もあり、有名なる武蔵七党の勢威を張つたこともある、それ故、林野と丘陵の間、多摩の流れに沿うた古戦場もそこここに散在し、多摩の横山、逃げ水、調布の里、狭山池など歌枕の旧跡も少くない、業平の『伊勢物語』道興准后の『回国雑記』菅原孝標女の『更科日記』にもその名が現はれてゐる。
紫の一本故に武蔵野の草は見ながらあはれとぞ見る (古今集)読人しらず
武蔵野や行けども秋のはてぞなきいかなる風の末に吹くらん (新古今)通光
武蔵野は月の入るべき峰もなし尾花がすゑにかゝる白雲 (続古今)通方
行末は露だに置かじ夕立の雲にあまれる武蔵野のはら (続後拾遺)読人しらず
尾花と月が武蔵野を代表してゐるので、古来秋草を画き月を配して武蔵野と題した作など多いが、近頃は、新しい武蔵野を画いてゐる作も相当にある。
筆者不明 『武蔵野』屏風 東京帝室博物館蔵
一立斎広重筆 『武蔵野』 綜合浮世絵展出品
無款 『武蔵野』 桑原羊次郎氏旧蔵
下村観山筆 『武蔵野』 古殿氏旧蔵
藤森徳太郎筆 『冬枯の武蔵野』 第四回帝展出品
松尾晃華筆 『武蔵野の秋』 第九回文展出品
河口楽土筆 『武蔵野二題』 第一回南宗展出品
林雲鳳筆 『義兵武蔵野に集る』 第十四回帝展出品
小山大月筆 『武蔵野六題』 第十五回院展出品
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)