馬切り(うまきり)

 寛政6年大坂角座にて初演された辰岡万作作の狂言「けいせい青陽 (はるのとり)」の一部分が残り、通称として「馬切り」「大和橋」と呼ばれ、演じられている。「けいせい青陽 」は実録「大久保武蔵鎧」に「宇都宮騒動」の釣天井の件を入れ、「太閤記」の世界にして脚色したもので、松平長七郎のことを小田三七郎信孝として演じている。その四幕目が独立して一幕物となったものである。十一代目片岡仁左衛門が片岡家の家の芸「片岡十二集」の一つとした。
 「宇都宮騒動」とは、三代将軍家光と駿河大納言忠長との家督相続争いで、二代将軍秀忠を釣天井から暗殺しようとする忠長側が領地を没収され、出羽に流されるという話である。

《あらすじ》秀吉の天下となったことで世間に背を向け、織田信長の息子三郎七信孝は傾城買いでうつつを抜かし、金に困る事になる。そこへ、秀吉の高野山の祠堂金三千両を馬に積んでくるという噂を聞き、大和橋で待ち受け、「余が臣の金子借用す。」と言い、馬士が争うのを一刀に切り捨てて金を奪う。天下の一大事と捕手が大勢捕まえようとするが、三七信孝と聞いて皆平伏してしまう。悠々と小判を積んだ馬を引いて信孝は去っていく。

《見どころ》馬士から大金を堂々と取り上げ、去って行くという痛快さのみが見所となっており、信孝役以外の役者は、付き合わされることになる。