ごあいさつ

立命館大学アート・リサーチセンター(ARC)には、さまざまな芸術・文化に関わる資料が収蔵されております。センター創設二年目を迎えたばかりで、公開に及んでいる資料は、まだその一部ですが、その中に日本が世界に誇る芸術、「浮世絵」も含まれています。
 ARCは、現在の重点研究課題である「無形文化財・時間芸術に関する総合的な研究」を推し進めるべく、とくに芸能や演劇面の研究に力を入れてきました。「浮世絵」は、多色刷りの版画ですが、描かれた題材の内、最も多かったのは、当時、最大の人気を誇った歌舞伎でした。それらは、「役者絵」と呼ばれます。そこには、江戸時代の時間芸術である芝居を、的確に描いた職人としての絵師が存在し、立派なマルチメディア保存を実現していたわけです。そうした意味で、私どもは、役者絵をARCの重要な研究資料として位置づけています。
 役者絵に描かれた役者は、いわば当時の人気スターですから、庶民から圧倒的な支持を受け、日本中知らない人はいないほどでしたが、現在はもちろん彼等の俤を偲ぶすべもなく、忘れ去られてしまったため、役者絵は、浮世絵の中では、それほど注目をあびてきたわけではありません。浮世絵と言えば歌麿の美人画、広重や北斎の風景画を思い浮べる人がほとんどでしょう。
 しかし、浮世絵の名称が表わしているように当時の風俗画としては、役者絵が圧倒的な人気を誇っていました。東洲斎写楽もそのほとんどの作品は、役者絵であることを思えば、このジャンルへの注意は怠ることができないのです。
 今回の展示は、三期に分け、第一期は初期のものから明治に至るまでの名品を、第二期は、描かれた歌舞伎作品にスポットをあてどのようなドラマが描かれているかを、また第三期は、当時の人気役者を現代に呼び戻してみたいと思います。
 京都では、不思議なことに浮世絵の展覧会は非常に機会が少なく、今回の展示は、かならずやその渇を癒してくれることだろうと思います。どうか、ごゆっくりとご鑑賞ください。

2000年11月吉日
立命館大学アート・リサーチセンター 京都演劇プロジェクト
第一期予備室 第二期予備室 第三期予備室

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