男女の性行為を描写・記述した絵画及び文章を書冊にしたもの。江戸時代には、枕草紙、笑い本、あるいは絵本をもじって艶本・会本などとも書かれたが、読み方はいずれも「えほん」であり、また「わ印」ということもある。
 艶本には、公刊本のパロディーといったものが少なくない。『東海道中膝栗毛』が流行すれば、『浮世閨中膝磨毛』などの道中記ものの艶本が書かれた。他にも『金瓶梅』を素材にした歌川国芳画『枕辺深閨梅』などがある。
 また仕掛絵本といったものもあり、ページを開いていくと扉が開いたり、隠されていたものがあらわたりする。今回展示する『恋の楽屋』もその一つである。
 艶本の作者・画工は公刊本でも活躍するような人々であった。平賀源内などの文化人、柳亭種彦や山東京伝、恋川春町などの戯作者、歌川国貞、渓斎英泉などの浮世絵師が多種多様の作品を発表し、人々を楽しませた。
054 風流玉の盃       hayE6-0002
@横本 3巻3冊 艶本 A13.8×19.3 B大湯山人作 C未詳D宝暦8年(1758)ヵ 
E浮世草子風艶本。京の豪商多羅福屋のひとり娘おたしの半生を描いた作品で、口語文の会話体を用いる。合巻形式の艶本『玉の盃』(色亭乱馬[式亭小三馬ヵ]作、好川艶春画、文政10年〜同11年ヵ)は本書を原作とする。

055 艶色はな靨         hayE6-0001
@横本 未詳 艶本 A14.4×20.3 B未詳 C未詳 D未詳 
E浮世草子風艶本。本書は目録・口絵15図・本文で構成されている。口絵の大部分は秘戯図、本文は仲居が取り持った遊女と間夫とのやりとりが展開される。
056 艶書美徒和草        hayE1-0002
@大本 3巻3冊ヵ 艶本 A26.0×18.6 B未詳 C未詳 D未詳 
E本書の内容は秘図7図の口絵・目録・付文という構成になっている。各図には女性と交合する際の格言と解説が付けられている。

057 春臠拆甲      hayE3-0089

@中本 1巻1冊 艶本 A19.0×12.7 B活活庵主人[樫田阿房守ヵ]作 月岡雪鼎画ヵ C吉野屋甚助D明和5年(1768) 
E本書の構成は序・再識の後序・口絵8図・本文からなる。各丁ごとに書体が異なる賛を配し、円窓形の口絵には秘戯図が描かれる。本文は支那風流小説で、作者の学識の高さと趣味が伺える作品である。

058 春風帖       hayE2-0084

@半紙本(縦長) 1巻1冊 艶本 A21.7×13.0 B画餅道人[中島棕隠]作 C酔紅堂 D安政3年(1856)
E作者は京の人で、漢詩・狂詩文で名を馳せ、自らを好事儒者と称していた人物。本書は序文から、作者の没後に刊行されたと考えられる。内容は4話で構成されており、それぞれ京の四条・木屋町・桂・島原を舞台にしている。

059 華月帖       hayE1-0004

@大本(縦長) 1巻1冊 艶本A27.5×15.8 B賀茂長命[賀茂季鷹]作 C未詳 D天保7年(1836) 
E作者の賀茂季鷹は江戸後期の代表的な文人。本書は彼が85歳の時の作品で、知人の文人画家に著名な古画からの模写を影絵に描いてもらい、そこに古文献や自作の戯文等を添えて一冊にまとめたもの。

060 [春窓秘事]      hayE1-0003

@大本 1巻1冊 艶本 A30.3×19.5 B淇澳堂主人編 C未詳 D刊年未詳(文化10年ヵ) 
E文化末年の江戸文壇大家の戯文を集めた折本の風流書。本来は十二ヶ月の歳事にちなんだ春画十二葉(歌川豊春筆ヵ)に各人の狂文が付されるものであったが、春画の方は今日伝えられていない。序は蜀山人[大田南畝]、一月狂歌堂[鹿津部真顔]、二月六樹園[宿屋飯盛]、三月立川談洲楼焉馬、四月式亭三馬、五月桜川慈悲成、六月尚左堂俊満、七月山東京山、八月飯台狂夫[曲亭馬琴]、九月三陀羅[三陀羅法師]、十月手柄の岡持[朋誠堂喜三二]、十一月山東京伝、十二月桜川甚孝で各人の自筆をそのまま刻している。林コレクション所蔵本は序・一・三・四・十月が欠落。

061 さかりの花の久しき栄/姿名鏡    hayE2-0053

@半紙本 1巻1冊 艶本 A21.3×15.3 B未詳(勝川春章・北尾重政画ヵ) C未詳 D未詳(安永初年頃) 
E本書は当時の人気役者二十余名の秘戯図を描いたもので、林美一氏は役者を春章、相方の女性は重政が描いたと考証する。役者は全て似顔になっているが、似顔部分だけを普通の人物に彫替えた異本も存在している。

062 [遺精先生夢枕]       hayE3-0046

@中本 3巻3冊 艶本 A18.0×13.4 B未詳(恋川春町作画ヵ) C未詳 D未詳 
E黄表紙形式の艶本。本書は恋川春町作画の『金々先生栄花夢』(安永4年)、同趣向の『金銀先生再寝夢』(安永8年)に続くものと考えられている。内容は中国の故事「邯鄲夢の枕」の趣向を借り、昼寝の夢で大名となり色欲を満足させる男の話。

063 長枕褥合戦         hayE4-0001

@小本 1巻1冊 艶本 A15.8×10.9 B悟道軒[平賀源内]作 C未詳 D明和4年(1767) E多方面で活躍した平賀源内作の浄瑠璃正本風艶本。節付もなされているが、内容はバレ浄瑠璃であり実際の上演は不可能。林コレクション所蔵本は、骨董店で本作品を発見した平亭銀鶏が万延元年に再刻刊行した「万延元年銀鶏本」である。

064 春情伎談水揚帳       hayE2-0044

@半紙本 3巻3冊 艶本 A21.7×15.5 B柳亭種彦作 不器用又平[歌川国貞]画 C陸沈閣 D天保7年(1836)ヵ 
E本書に作者の記載はないが文政・天保期の人気作者柳亭種彦の作であり、ベストセラーとなった合巻『偐紫田舎源氏』の作者と絵師による艶本である。今回展示する中巻口絵第二図の男性は種彦自身で、ここに描かれている家も種彦が先述の合巻の稿料で建てたとされる「偐紫楼」と考えられている。

065 春情色能浴込        hayE3-0009

@中本 2巻2冊 艶本 A18.0×12.0 B房庵恋々山人[一荷堂半水ヵ]作 C未詳 D未詳(嘉永末頃ヵ) 
E人情本形式の艶本で上方板。初編と二編にそれぞれ六図の秘戯図があり、各編の第一図と初編の第六図は開き絵の仕掛になっている。

066 五大力恋之柵        hayE2-0015

@半紙本 2巻2冊 艶本 A20.3×13.4 B猿猴坊月成[<2>烏亭焉馬]作 不器用又平[歌川国貞]画 C金玉堂 D文政9年(1826) 
E本書は前年の九月に江戸の中村座で上演された芝居「盟三五大切」の評判を当て込んで作られた作品。合巻形式の艶本だが秘戯図は少なく、むしろ凄惨な殺戮場面を描いているのが特徴といえる。

067 艶説筑紫琴         hayE2-0025

@半紙本 5巻5冊 艶本 A22.5×15.7 B<2>曲取主人[花笠文京]作(三巻以降は大鼻山人[東里山人]作) 淫乱斎白水[渓斎英泉]画 C未詳 D文政4年(1821) 
E読本形式の艶本。本書は中国の『会真記』を原拠とし、玄宗皇帝の淫楽な逸話を織り込みながら、芝居の「苅萱桑門筑紫B」の世界に寄せて構成されている。

068 十襲秘蔵/春閨情史     hayE2-0063

@半紙本 3巻3冊 艶本 A21.0×15.3 B雲雨道人[暁鐘成]作 鴛鴦亭主人[暁鐘成]画 C芬嵩堂 D未詳(文政頃ヵ) 
E本書は上方の戯作者として著名な暁鐘成作画の歌舞伎台本形式の艶本で、登場人物の一部には役者の似顔が用いられている。各巻一劇ずつ歌舞伎の場面を抜粋し、上巻は名古屋山三と阿国御前、中巻は宗玄と折琴姫、下巻は主馬小金吾と若葉内侍の濡場となっている。

069 艶本/恋の楽や       hayE2-0007

@半紙本 3巻3冊 艶本 A22.0×15.5 B猿猴坊月成[<2>烏亭焉馬]作 不器用又平[歌川国貞]画 C未詳 D未詳(文政10年ヵ) 
E歌舞伎界の醜聞を素材にした艶本。登場人物の顔も当時の人気役者の似顔になっている。猿猴坊月成・不器用又平のコンビは仕掛艶本をいくつか作っており、本作品にも大掛かりな仕掛が施されている。

070 宝合            hayE6-0004

@中本 2巻2冊 艶本 A17.4×12.3 B猿猴坊月成[<2>烏亭焉馬]作 五ツ目の弱男[歌川国貞ヵ]画C春画堂 D未詳(文政9年ヵ) E林コレクション所蔵本は中本二冊を巻子形式に改装したもの。陽の前編は当時の人気歌舞伎役者8人、陰の後編は歌舞伎の登場人物の女性8人を選び、各人に相応した性器を描く。