異体字処理原則 Ver.6


異体字処理原則     第6版(2016/3/8)



 以下でいう「常用漢字」とは昭和56年制定当時のもの、 
 また「人名漢字」とは平成15年以前のものを指す。 
 常用漢字は平成22年に、人名漢字は平成16年に、 
 それぞれ大幅に増補されたが、 
 それらは異体字を判断する基準としては採用しない。 
 (第4版で注記追加、第6版で更に追加かつ先頭に移動) 



一、統一/両用

 統一:対象字と異体字(すなわち同字)と認められる場合
    原則としていずれか一字に統一する (ここでは「=」で表示)

 両用:対象字と別字であると認められる場合
    または異体字であってもしかるべき理由のある場合
    原況を保存する (ここでは「‖」で表示)

(一)常用漢字表内の旧字体は新字体と同字とする。

   例 圍=囲  號=号  證=証  竊=窃  雙=双  體=体  臺=台  燈=灯
     辨・瓣・辯=弁  萬=万  豫=予  餘=余  龍=竜  など
   例外 岳‖嶽

 ・「臺/台」「豫/予」など本来の字義が異なるものも、現代日本語の用法に従って同定する。
 ・第二期では「窃‖竊」「灯‖燈」「万‖萬」「竜‖龍」など多くの例外を設けていたが、今期はそれらも統一する。
 ・唯一例外として残した「岳‖嶽」は、現在でも「岳」とは別に「嶽」が使用される事例が多いことによる。

(二)人名漢字の許容字体は表掲載字体と同字とする。

   例 亙=亘  彌=弥  祿=禄  穰=穣 

(三)いわゆる拡張新字体は正字体と同字とする。

   例 曽=曾  祢=禰  鴬=鶯  桧=檜  など

(四)同音同義で字形の違いが僅かなものは互いに同字とする。

   例 冨=富  弍=弐  竒=奇  凉=涼  舍=舎  亰=京 など

(五)動用字は互いに同字とする。

   例 峯=峰  枩=松  羣=群  畧=略  棊=棋  鄰=隣  朖=朗
     讎=讐  蘓=蘇  濶=闊  など
   なお 慙=慚  裡=裏  嶋=島  などもこれに準ずる。
   例外 娵‖娶  蟇‖蟆

 ・「娵‖娶」「蟇‖蟆」などは、それぞれ異なる用法で使われることが多いため例外とした。

(六)音または義が一致しないものは互いに別字とし両用する。

   例 寝(シン)‖寐(ビ)  背(ハイ)‖脊(セキ) 
     舟(シュウ)‖船(セン)  脅(おびやかす)‖脇(わき) など

 ・「寝/寐」「背/脊」などは、字形が似ていることもあり当時あまり区別されずに用いられていたようにも思われるが、
 音が異なる以上は異体字ではなく別字なので両用する。
 ・「升(ショウ)」と「舛(セン)」は音も義も異なるが、
  「舛」を「ます」と読むのは、「升」の異体がたまたま「舛」と近似した形となったと見なし、「升」に同定する。
 ・「斎(サイ)/斉(セイ)」も同様に、「斉」を「さい」と読む場合は「斎」に同定する。
 ・「舟頭(せんどう)」「寐所(しんじょ)」「神詫(しんたく)」などについては、
  凡例の「当て字ないし慣用の久しい通用字は改めない」を適用する。(第4版で追加、第6版で例を追加)

(七)ともに常用漢字である場合、互いに別字とし両用する。

   例 個‖箇  准‖準  花‖華  娘‖嬢  など

(八)一方が常用漢字で他方が人名漢字である場合、互いに別字とし両用する。

   例 園‖苑  岩‖巌  修‖脩  総‖惣  襟‖衿  など 

 ・「准/準」「総/惣」などは歴史的には明らかに異体字関係にあるが、
  現代では別個の文字と認識されているので別字とする。

(九)同形の文字を意味用法によって処理し分ける場合がある。

  例 于/干  爪/瓜  未/末  弟/第  郷/卿
   刀/力  午/牛  矢/失  且/旦  帥/師  嗚/鳴
   寄/奇  負/屓  宮/色  室/宝  雅/稚 
   模/摸(その他木へん全般/手へん全般)

   己/已/巳  戊/戌/戍  
   祇(ギ、祇園など)/祗(シ、祗候など)  陣(じん)/陳(ちん)
   斗→斗(と)/計(ばかり)  吊→吊(つるす)/弔(とむらう)
   壬→壬(みずのえ、壬生など)/閏(うるう)  桝→枡/椒(草書体が「桝」に似る)
   厂→雁/歴/暦  广→磨/摩/魔  宦→宦/官  刃→刃/叉
   (第4〜6版で例を追加)

(十)特定の語彙に限って両用する場合がある。

  →第4版以後、この原則を削除する。

 第4版注記
 ・旧版で例示した「園/薗」「刈/苅」「梅/楳」「蓑/簑」は、
  語彙によらずすべて次の(十一)または(十二)の例外に含め、常に両用することとする。

(十一)以上の原則がいずれも当てはまらないものについては、
    便宜的に『新字源』の立項状態に準拠し、次のようにする。

  (その一)それぞれ別個に親字として立項されている場合は互いに別字とする。

    例 陰‖蔭  咏‖詠  郭‖廓  奸‖姦  歎‖嘆  坐‖座  忰‖伜  など
    例外 菴=庵  哥=歌  礒=磯  詑=詫  扠=扨  靫=靱  無=无

  (その二)一方が異体字として親字の項目に従属している場合は親字と同字とする。

    例 烟=煙  渕=淵  恠=怪  舘=館  鴈=雁  皈=帰  襍=雑 
      帋=紙  餝=飾  壻・聟=婿  蹟・迹=跡  舩=船  邨=村 
      躰=体  舖・鋪=舗  脉=脈  埜=野  泪=涙  同=仝など
    例外 皃‖貌  盃‖杯  堺‖界  藁‖稿  臈‖臘  阪‖坂  協‖叶
       刈‖苅  梅‖楳  蓑‖簑  棲‖栖  来‖徠(第4版で追加)
       竪‖豎(第6版で追加)


 ・例外としたものはいずれも、事務局の合議において両用すべきであるとしたものである。
 ・「坐/座」は旧版ではその一の例外として「坐=座」としていたが、「坐‖座」に変更する。
 ・「忰/伜」は、旧版では「忰=悴=倅=伜」としていたが、「忰‖伜」と変更する。
  但し「悴=忰」「倅=伜」は旧版通り。
 ・「靫/靱」は旧版の「靫‖靱=靭」から「靫=靱=靭」に変更する。
 ・「同/仝」は旧版の「同‖仝」から「同=仝」に変更する。

(十二)『新字源』には登載されていない字形であっても、古今の異体字字典等によって
    他の文字の異体字と認定できるものは認定する。

    例 寉=鶴  籏=旗  皷=鼓  桝=枡  艸=草  閇=閉  など
    例外 園‖薗(第4版で追加)


二、採用字

 採用:互いに同字と認められる字群のうちから統一に際して用いる一字を選ぶ
    (ここでは「不採用→採用」の形で表示)

(十三)一方が常用漢字であれば、そちらを採用する。

   例 澤→沢  條→条  峯→峰  冨→富  竊→窃  燈→灯  萬→万  龍→竜 
     烟→煙  恠→怪  舘→館  襍→雑  帋→紙  餝→飾  壻・聟→婿  蹟・迹→跡
     舩→船  邨→村  躰→体  舖・鋪→舗  脉→脈  埜→野  泪→涙 
     仝→同 など

  ・第二期は「芸→藝」「台→臺」「広→廣」「団→團」「伝→傳」などを例外としたが、
   第三期ではこれらのものについても例外としない。

(十四)一方が人名漢字であれば、そちらを採用する。

   例 彌→弥  祿→禄  尓→爾  萠→萌  夘→卯  涌→湧
     堯→尭  槇→槙  遙→遥  煕熈→熙  礒→磯など

(十五)拡張新字体については、原則として正字体を採用する。(第6版で変更)

   例1 以下のものは、今回の原則変更後も例外として新字体を採用する。
    曾→曽  禰→祢  蠅→蝿  竈→竃  檜→桧  倅→伜  悴→忰  儘→侭
    鶯→鴬  擡→抬  麩→麸  讚→讃

   例2 以下のものは、正字体を採用することに変更する。
    諌→諫  賎→賤  薮→藪  壷→壺  涛→濤

   例3 以下のものは旧凡例でも正字体を採用するとしていたため、変更なし。
    潅→灌  頚→頸  篭→籠

  ・以上に挙げたのは正字体と新字体のコードが異なるものだが、
   コードが同じ場合でもこの原則を適用する。
   例 [区鳥]→[區鳥]  [虫単]→[虫單]  [ネ氏]→[示氏]

(十六)その他については(十一)と同様、便宜的に『新字源』の立項状態に準拠し、
    一方が異体字として親字に従属している場合、親字を採用する。

    例 渕→淵  濶→闊  鴈→雁  尅→剋  咒→呪  笋→筍  碪→砧  侫→佞  など
    例外 鵝→鵞  讎→讐  蘆→芦  蝨→虱  廚→厨  纏→纒  溯→遡  譁→嘩

  ・「侫→佞」は、従来の「佞→侫」を変更する。
  ・従来の「栖→棲」は、「栖‖棲」と変更したため削除する。
  ・(十一)のその一で例外としたもののうち(十三)〜(十五)が適用できないものについては、
   菴→庵  詑→詫  扠→扨  靫→靭 とする。


(十七)『新字源』に登載されていない字形が登載されている文字の異体字であった場合、
    登載されている文字を採用する。

    例 婬→淫  鼡→鼠 など
    例外 菟→莵

  ・「莵/菟」は「兔→兎」に連動させて「菟→莵」とした。